■第64話 コースケの進路
リコはコースケと一緒に夜道を歩いていた。
いつも送ってくれる家が近所のリュータは、今夜はアカリとバイクで帰ってしま
った為、コースケが送ってくれる事になったのだ。
しかしそれだと保育園前を通過しコースケが遠回りになってしまうからと、リコ
は一度断ったのだが、コースケは頑としてそれを受け入れない。親に迎えに来て
もらうからと言っても、タクシーで帰れると言っても、コースケはなんだか愉し
そうに笑いながら首を横に振るばかりだった。
あの日以来、二人きりになるのは初めてだった。
コースケはまるで何も無かったかのように、いつも通りたくさん喋って笑う。
リコだけが、あの日の事をずっと気にしていた。
”マリの事 ”を口に出してしまった、あの日のことを。
ゆっくりと夜道を歩く二人の目に、コースケの実家であるひまわり保育園が道路
向かいに見えた。勿論こどもの姿も声もなく、なんだかいつものそれより何倍も
暗く寂しく映る。グラウンドの遊具もまるで眠っているように硬く冷たそうで。
なんとなく少し沈黙の時間が流れ、ふとリコが進路のことを口に出した。
『絵で生きていこうなんて考えてないんだけど、
やっぱりどうせ勉強するなら好きな事を、って思ってて・・・。』
リコの言葉にコースケはうんうんと微笑んで頷く。
そして、『俺、バイト始めようと思ってんだ。』と嬉しそうに呟いた。
リコは今までの進路の話の流れと全然違う気がして、『そうなんだ・・・。』と
相槌を打つも、小さく首を傾げる。
すると、リコのイマイチ話が掴めていない感じを察しコースケが口を開いた。
『今の大学には流れで入ったんだけど、
やっぱり子供が好きだし、園も好きだし、
保育士を目指そうと思ってさ・・・。
その為には幼児教育を勉強して資格とんなきゃいけないんだけど、
親に大学の金出してもらってるのに、それまで頼りたくないし・・・。
だから取り敢えずバイトして金貯めて、
夜間の学校通って資格取ろうと思ってさ・・・。』
遠く夜空の星を眺めながら、コースケは続ける。
『俺みたいに最初別の道に進んでても、途中で軌道修正はきくんだよ。
だから、今、好きな事が明確ならそっちに進んでいいと思うけどなぁ。
もし途中で ”やっぱ違うかも ”って思ったら
長い人生なんだから、いくらでも道は変えたらいいじゃ~ん?』
リコはなんだかイキイキとした表情で語るコースケの横顔をそっと見つめていた。
コースケの言葉がストンと胸に落ちる。
ずっとモヤモヤと胸に痞えていたものが一瞬で消えた気がした。
(好きなんだもん・・・ 自分の足で進めばいいんだ・・・。)
そして、自分のそれ以上にコースケの進路を応援したいと心から思っていた。
『もうバイトは探してるの?』
『この間、ひとつ面接受けて来た。』
のんびりしていそうなのに、コースケは意外に行動力がある。
優しくて少し情けなく見えるその笑顔の奥には、強さがしっかりと潜んでいた。
『・・・これから、日曜は・・・ バイト、するの?』
リコが、園でのイラスト描きの事を思いながら訊ねる。
応援はしたいけれど、本音を言えば日曜は二人で描きたいという気持ちも抑えら
れずに。言ってしまってから、矛盾する思いにリコが一人反省しかけていると。
『ううん。 日曜は絵を描く日だからね~。』 そう言って笑うコースケに、
リコは嬉しくてたまらなそうにキラキラと目を見開き、頷いて微笑み返した。
坂道を上り、二人はリコの家の前に到着した。すると、コースケはすぐ元来た
道を戻って帰ってゆく。
リコは小さく手を振りながら、コースケの背中が遠く見えなくなるまでずっと
見送っていた。その優しい背中を。優しくてあたたかくて、強い背中を。
(私もコーチャン先生に負けてらんない・・・
・・・さっそく明日から頑張らなくちゃ・・・。)
少しひんやりとした夜風に吹かれながら、リコの中になにか強い気持ちがひとつ
芽生えていた。




