■第47話 リュータの気持ち
コースケ・リュータ・リカコの三人は、大学の講義を受けていた。
階段状になった講義室には年季の入った長机にイスは跳ね上げタイプのそれ。
その講義にはそこそこ学生が入っていて、三人は少し窮屈にも思える距離で
並んで座っていた。
退屈な内容で、コースケとリュータは殆ど講師の話も聞いてなどいない。
片肘をついて欠伸まじりでペン回しをしたり、ノートに無意味な悪戯書きを
したりしていた。
そんな中、リカコだけが一応きちんとノートを取っていた。
コースケがノートに悪戯書きした、耳がピンと立った犬でもない猫でもない
気味が悪い謎の生物の絵を横目で見たリカコが、ふと先日のナチを思い出し
リュータにさぐりを入れる。
『そう言えばリュータ・・・
・・・あおい、 元気・・・?』
リュータが『んぁ?』と突っ伏していた机から眠そうに上半身を起こし、
その問いに返事しかけて、ハっと目を見開き何かに気付いた顔を向ける。
『あああー!!!
お前か? アイツに言ったの・・・
なんかもぉ~・・・ ムカつかれるは、怒られるは、
仕舞いにゃ泣かれて、ほんっと大変だったんだからなー! バカっ』
リュータは眉間にシワを寄せ口を尖らせて、リカコの痩せた背中にグリグリ
と拳をスクリューする。
リカコはそのムキになっているリュータの顔を見て、机に突っ伏し必死に
笑いを堪えて肩を震わす。本当は声を上げて大笑いしたいところだが今は
静まり返った講義中で、講師の声しか響いていない。さすがに笑い声を上
げる訳にもいかず、リカコは笑いを堪える代わりに、その溢れるエネルギー
で思わず机をバンバン叩いてしまい結局講師に名指しで注意された。
『まぁ、いいじゃん?
・・・で?
誤解が解けて、なんかあった? ナチと・・・。』
リカコが悪魔のように口角を上げるだけ上げてニヤついてる。
聞きたいのは ”話の続き ”、ナチとの ”進展 ”についてなのだ。
話の先を急かすように脚を踏み鳴らし、なるべく音が響かないよう手の平で
机を小さく小さくタンタンと叩いた。
すると、
『えっ!!!
お前・・・ ナッチャンとなんかあんのっ?!』
やっと若干話の流れに気付いたコースケが、悪戯書きの手を止め興奮気味に
叫んだ。
その抑制の欠片もない声が再び講義室内の高い天井に木霊し、講師が顔色を
変えて差し棒をコースケ達三人に向ける。そして次に講義に関係ない雑談を
したら退出させると息巻いて怒鳴った。
三人揃って慌てて背筋を正し、苦い顔を作ってペコリと頭を下げる。
しかしすっかり興奮しているコースケは中々その高まりが収まらず、限りな
く口パクに近い小声でまだ話を続けた。
『えええええ。
マジかよ、マジかよ~~・・・
俺らの中からカップル・・・とか? 出来ちゃうのかよ~~・・・
ってゆーか、リュータがナッチャンを・・・ ねぇ・・・
・・・あれ??
そぉ言えば、リコちゃんは?
・・・リコちゃんは、付き合ってる奴いないんだっけ??』
やけに愉しそうに嬉しそうに子供のようなキラキラした目ではしゃぐコースケ
を見てリュータとリカコは一瞬ポカンとして固まり、ゆっくり顔を見合わせた。
あまりに呆れかえって、互いの開いた口の奥にしっかり奥歯が見えている。
『・・・・・。』
『・・・・・。』
そして暫し無言だった二人が、同時に大きな大きなため息をついた。
あまりに分かり易いボリュームの聞こえよがしなそれに、講師が再びギラリと
嫌味っぽく睨みを利かせる。
『・・・鈍感とおり越して、もう、清らかすぎて神の域よね。』
『え?』 リカコの嫌味にも全く気が付かない、コースケだった。
リュータは再び机に突っ伏し、指先で癖になっているペン回しをしながら
二人に言われた事を考えていた。
同い年の妹がいるだけに、昔から年下の女の子が困ってると放っておけない
ところがあった。特に、手が焼ける子だとそれは尚更で。
今までだって年下の子と付き合ったりもしてきた。思い返すと年下率の方が
高かったかもしれない。
それにナチが自分へ少なからず好意を持っている事は気が付いていた。
でも、リュータにはそれが純粋にイコール ”愛情 ”と結び付けて考えられ
なかったのだ。
あの日ナチの頬にキスしたのは、本当にあの時愛しく感じたからだったけれど
だからといってすぐさま確定できる程の気持ちが、覚悟が、本当にあるのか。
(俺、なんかサイテーかも・・・。)
リュータの胸に、誰にも言えない後ろめたい思いがモヤモヤしていた。




