■第46話 マリとの出会い
『この間、タクヤと遊んでくれたのよね・・・?
ちゃんとお礼も出来なくて、ごめんなさいね。』
そう言って、やわらかい表情でリコに話し掛けてきた女性がマリだった。
リコは勝手なイメージで、コースケにすがり頼りきっている弱々しい女性
を想像していたのだが、マリは180度違う感じがした。
会社員らしくきちんとスーツを着込んでいるけれど、ピンクベージュの
それはフェミニンなふんわりシルエットで、やわらかさが滲み出ている。
小柄で華奢で母親特有の優しい雰囲気もありながら、一本芯の通った様な
凛とした女性だった。
(なんか・・・ 強くてキレイな人だなぁ・・・。)
リコは言葉を失くしたまま、目の前のマリにまじまじと見惚れてしまって
いた。なんだか見ていると無意識に背筋がスっと伸びるような気がする。
するとそんなリコに、自分に注目してほしいタクヤがジタバタと手を
左右に振ってその小さな指先に今買ってもらったばかりであろうお菓子
を掴んで揺らして見せる。
そして『はい。コレ、お姉ちゃんにあげる!!』とそれをひとつ渡した。
『えっ!!
たっくんの大事なお菓子でしょ~?
いいよいいよ、たっくん食べなよ~。』
リコはタクヤの目線に合わせてその場にしゃがみ込み、その小さな手を
優しく優しく遮って遠慮したのだが、タクヤは頑として聞き入れず首を
左右にふるふると振ってお菓子を差し出し続ける。
タクヤはどうしてもリコに貰ってほしいらしく、そのぷくぷくの頬を更
にぷっくり膨らませて半ば意地のように必死に。
すると、
『貰ってあげてくれない?
たっくん、きっとアナタが好きなのよ。』
と言って、マリが優しく微笑み
『ぁ、ごめんなさい。
私・・・マリです。 名乗るのも忘れてたわね。』
その言葉に、リコもきちんと名乗っていなかった事に今更ながら気付き
『・・・リコ、です・・・。』とペコリと頭を下げ挨拶した。
するとマリはパチパチと瞬きを繰り返しリコを見つめ、ちょっと驚いた
顔をしてタクヤの方を一瞬見た。
そんなマリに、タクヤがうんうんと嬉しそうに大きく頷き笑う。それは
二人の間でなにか確認し合うような感じで。
『アナタがリコちゃんだったのねっ!!
・・・会えて、すっっごく嬉しいっ!!!』
そう言ってマリがリコの片手を取った。
するとタクヤもリコのもう一方の片手を取り、二人して上機嫌に手を
ブンブン揺らす。その謎の歓喜の表現にまだしゃがんだままのリコは
よろけそうになりながら、何がなんだか分からぬまま困った様な笑い
顔でされるがままになっていた。
『今度、一緒にご飯でも食べましょうねっ!』そう言ってマリとタクヤ
は手を振りながら帰って行った。
賑やかな夕暮れの商店街の奥に母子の姿がどんどん小さくなってゆく。
一人残されたリコは呆然とした面持ちでいつまでも手を振り返しながら
その場に佇んで今起こった出来事をもう一度考えていた。
コースケに依存する弱々しい女性と勝手に決め付けていたマリは、まるで
違うタイプでとっても凛々しく素敵な人だった。
一人で気丈に真っ直ぐ前を向き頑張ってる姿を、コースケは放っておけな
いのかなと、また少しだけネガティブに考えてしまう。
しかし、まだまだマリのことはよく知らなけれど、リコはマリのことが
好きになれるような気がしていた。
コースケが大切に想う人を、リコ自身も好きになりたい。
これからどんな距離でマリと接していくのがベストなのか、そんなの全然
分からないけれど、それでも嫌って憎んで妬むのではなく ”この人なら
好きになるよね ”と思える相手であってほしかった。
(私も、あんな人になりたいな・・・。)
マリのような素敵な女性になりたいと、リコは心の底から痛感していた。




