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■第44話 イラスト


 

 

それから、コースケは考えている園のイラストのイメージについて話しだした。

 

 

今までこんな相談が出来たのは勤務歴の長い保育士だけで、それも時間外労働に

なっては申し訳ないと遠慮してしまい、多くは自分の中にだけ溜め込んでいた。


しかし今、目の前にいるリコがあまりに嬉しそうに、まるで園児のように目を

キラキラさせて話を聞いてくれるものだから、コースケは身振り手振りを付けて

今まで消化しきれずにいた思いを全て吐き出すように、息継ぎも忘れて話す。

 

 

保育園の壁は可愛いイラストでいっぱいにしたいと語るコースケ。

子供たちが手を伸ばしていっぱい触れるように、子供たちの目の高さに興味を

惹くイラストをたくさん張り出したいのだと。

 

 

 

 『今日は・・・ あんまり急だから、ダメだよな?』

 

 

 

思わず呟いてしまってから、苦い顔を作り発言を取り消すコースケ。


折角の休日だというのに、急なお願いをしかけた自分をいなす。この後のリコの

予定も知らないし、頼まれたら断りづらいという性格なのだから気を遣わせるだ

けだというのに。

 

 

すると、リコが勢いよく立ち上がって言った。


『善イソっ!!』 愉しそうにリコが目を細め笑う。

 

 

 

 『ぇ? ぜん・・い・・そ・・・?』 

 

 

 

コースケはその言葉の意味が分からず小首を傾げるも、リコは急いで画材をバッグ

に詰めて片付け始めた。


そしていまだ事態が把握出来ていないコースケの腕を引っ張って、保育園へ戻る

道へと歩き出した。

 

  

 

 

 

気が付けば太陽は真上にのぼり、もう昼になっていた。


園へと向かう坂道を下りながら、コースケが言う。 『コンビニ寄ってこうか。』

うんうんとリコも頷き、ふたりはコンビニに寄って昼食を買うことにした。

 

 

コンビニ店内に入店した際のチャイムが鳴り、コースケに続いてリコが歩く。


入口すぐ横に置かれたカゴを持つとコースケが『食べたいもん買って!』と促す。

こんなコンビニでの買い物でさえ、リコは気を抜くと涙が出そうに嬉しかった。

 

 

 

  (コーチャン先生と・・・ ふたりで、買い物してる・・・。)

 

 

 

コンビニの鏡になった壁に映った自分の顔が嬉しそうに緩んでいて、リコは慌てて

頬をきゅっと引き締めた。

 

 

昼食やお菓子、ドリンクなど買い込んでひまわり保育園へ向かう休日の午後。

それは思い返せばコースケと二人の、2度目の静かな休日の保育園だった。

 

 

まずは腹ごしらえと、園児用の小さいテーブルを引っ張り出し買ってきた食べ物を

広げた。床にペタンと座り込み、他愛も無い話をしてゲラゲラ笑い合いながら昼食

を取る。

満腹になったところで、ついにイラスト描きを始める事にした。

 

 

コースケがリコにイメージの詳細を伝える。


園内の中央にある ”みんなのひろば ”と呼ばれる遊戯室の4面の壁に、それぞれ

四季を描きたいとコースケは熱く語った。

 

 

 

 『春の壁には、桜の木とか、お雛様とか春っぽいイラスト。


  夏なら、花火とか。


  秋なら紅葉・・・ 冬なら雪だるま・サンタ・・・。』

 

 

 

リコは、真剣な表情で一生懸命に語るコースケをそっと見つめる。

真面目で、真っ直ぐで、ひたむきで・・・


コースケとの二人の時間が嬉しいという事だけではなく、純粋にイラスト描きに

対して張り切りだしていた。

 

 

 

 『俺、イメージは完っ璧に出来上がってんだけど~・・・


  ・・・なんっせ、絵が描けなくて・・・。』

 

 

 

そう言ってコースケは情けなさそうに眉尻を下げて笑う。


リコはコースケの四季の壁の案にもの凄く感動していた。それが飾られた壁を

見たときの子供たちのはしゃぐ顔が目に浮かぶようだった。

 

 

すると、リコも次々思いついた案を出す。

 

 

 

 『絵だけじゃなく、こう・・・立体的に、


  子供たちがふれられるように。


  例えばぁ・・・ 


  ん~・・・ 桜の木だったら、さくらんぼを折り紙とかで作って


  実際ぶら下がる感じとかにしたら、もっと楽しいんじゃないですかね??』

 

 

 

リコとコースケは夢中で案を出し、話し合い、一緒に考えた。

スケッチブックにまずはイメージを試し描きしてみる。

 

 

コースケが、鉛筆を握り締め描き進めるリコをすぐ横で覗き込む。

リコの首筋に、コースケの息を微かに感じる。


それがどうしようもなく恥ずかしくなって、リコは気付かれぬよう少しだけ体を

遠のけた。

 

 

 

 (コーチャン先生と、こんな時間を過ごせるなんて・・・。)

 

  

 

クローゼットからスケッチブックを見付けだした自分を褒めてあげたいリコだった。

 

 

 


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