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■第42話 境内で


 

 

リコはコースケの真実を知ってからずっと、これからの事を考えていた。

 

 

今までのようにコースケを想って一喜一憂するだけの毎日では駄目だと感じて

いた。想う相手の一挙手一投足にのみ左右され、泣いたり落ち込んだり周りに

迷惑をかけるだけなんて、なんて味気なく薄っぺらい毎日だろう。

 

 

もっと、自分に自信がつく ”何か ”を見つけたい。リコはそう思った。


そして、真っ直ぐ前を見据えた素敵な女性になって、いつの日か正々堂々と

コースケにぶつかりたいと考え始めていた。

 

 

すると、自室のクローゼットをゴソゴソと物色しはじめた、リコ。

脚立に上り上段の棚の奥の奥へと手を伸ばすと、そこにはもう何年も開けて

いない埃をかぶった段ボールが数個無造作に放置されていた。

 

 

 

 『ぁ・・・ あった!!!』

 

 

 

探していた箱を見つけて無邪気に声を上げ喜んだ途端、段に頭をぶつけた。


体を前後し脚立から落ち掛けて、危なっかしくその場にしゃがみ込む。

確実にたんこぶになりそうな頭をしかめっ面でさすりながら、見つけた箱を

開けそれを引っ張り出す。

 

  

 

 『見つけた・・・。』

  

 

 

子供のように目を輝かせ、リコが笑顔になった。

  

  

 

  

 

 

日曜の早朝。リコは荷物を詰めた大き目のトートバッグを肩に掛け、自宅の

玄関をそっと抜け出していた。


行き先は、ひっそりと丘の上にあるお寺の境内。

昔からよく来ていた場所でここ最近はご無沙汰だったのが、つい先日ナチ達

と久々に訪れたことで、再び穏やかで心落ち着くそこに魅せられたのだった。

 

 

誰もいないそこは、朝靄で樹々の緑が幻想的に霞んで輝いている。

すずめが数羽小さく鳴いて、灯篭の上でハーモニーを奏でる。

朝の爽やかで心地よい風がリコのセミロングの髪の毛を優しく揺らした。

 

 

然程広くはない境内の敷地内をウロウロしてポイントを探す。


スニーカーの靴底が砂利を踏みしめてシャリシャリと音を響かせる。

リコはとあるポイントに目星を付けると、持参した折り畳みの小さいイスを

トートバッグから取り出し広げて座った。

 

 

そしてイスに腰掛けて見える目の前の景色に満足気にうんうんと頷くと、

再びバッグに手を差し込み、大切に大切にそれを取り出す。


リコの膝の上に広げられたのは、スケッチブックとパステルだった。


黄色と濃緑の表紙が特徴のそれは、丁度良いサイズで水彩でも鉛筆でも描き

やすく子供の頃から愛用していたスケッチブックで、自慢のパステルは昔

お年玉を貯めてやっと購入した242色のゴンドラパステルセットだった。

 

  

 

 『久しぶりだなぁ・・・。』

 

 

 

リコは子供の頃から絵を描くのが好きで、以前はよくスケッチブックとパス

テルを持って絵を描きに出歩いたものだった。


高校に入学し次第に描く機会が減って、最近は全く描いていなかったのだが

”何か自分が好きなこと ” ”少しでも自信があること ”と考えた時、また

スケッチブックを引っ張り出すことを思いついたのだった。

 

 

最初少し躊躇いがちだった指先も、一度白紙の上に色を落とすと途端に止ま

らなくなり、次から次へと面白いように境内からの景色が色付く。


ただ純粋に絵を描くことが好きで、楽しくて楽しくて仕方なかった。

心を真っ新にしてやわらかい表情で、キラキラした早朝の街並を描き続けた。

 

 

暫し時間も忘れて風景画を描き続けた後、用意してきた水筒でお茶を飲んで

少し休憩を取った。ワンタッチでオープンするキャップユニットに口を付け

中身のアイスティーを喉に流し込むと、いつも家で飲んでいるそれとは思え

ないくらいに驚くほど体の隅々にまで沁みてゆく。リコはあまりの美味しさ

にゴクゴクと少し行儀悪く喉を鳴らした。

 

 

ゆっくりと照り始めた目映い日差しに、そっと目を閉じる。


そしてひとつ深呼吸して大きく胸を膨らませると、目を開けた。

胸の奥をくすぐる、やわらかいあの笑顔。


すると、スケッチブックをめくって真っ白なページを開くと、イラストを

描き始めたリコ。

 

 

黒い短い髪の、困った顔で笑う男の子・・・これはコースケ。

天然パーマで軽くウェーブがかった栗色髪の目が大きい子は、ナチ。

明るく染めた茶髪のツンツンと跳ねた髪型・・・これはリュータ。

ストレートの黒髪美人・・・これがリカコ。


そして、コースケをそっと後ろから見つめる位置に描いたセミロングの

女の子・・・それはリコだった。

 

 

その時、 

  

 

 

 『・・・リコちゃんっ??』

 

 

 

自分の名前を呼ぶ、聞き間違えるはずないあの声に振り返ると、そこには

思った通りコースケが立っていた。

 

 

あまりにビックリして勢いよく立ち上がり、リコは膝の上の画材を盛大に

ひっくり返した。

 

 

 



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