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■第39話 リュータの部屋から

 

 

 

ナチはその日以来、寝ても覚めても ”あおい ”という固有名詞が頭をグルグル

巡っていた。

 

  

 

 (同じ大学の人・・・? 


  それとも地元の高校の同級生・・・?


  ・・・もしかしたら、もっと前からの、すっごい長い付き合いとか・・・?

 

 

  誰・・・ 誰なの?あおいって・・・


  私、ゼンッゼン、聞いてないし・・・

  

  

  ・・・あおいって、誰なのよ・・・・・・・・・・・・・・・・。)

 

  

 

気になって気になって仕方がない。


あおいの存在を知るのは怖いけれど、しっかりハッキリ突き止めなければナチの

性格上気が済まなかった。うやむやなままでいるのが何より苦痛だった。

 

 

考えに考えた末、結局 ”こっそり偵察する ”というザックリした案しか浮かば

なかったが、リコを誘ってリュータの部屋まで行ってみようと決心する。

しかし、リコにもリュータへの気持ちを伝えていないのに、まずどうやってリコ

を連れ出すかという壁にすぐさまぶち当たった。

 

 

狭い自室をウロウロと歩き回り考えあぐねる。


そして、頭で考えるよりまず体と口が動くタイプのナチは取り敢えずリコに電話

した。

 

  

 

 『ねぇ、リコ? 明日の休みってヒマ~?


  散歩しない? 散歩・・・

 

 

  ・・・えーぇと。 テ、テキトーに。 そこら辺、を・・・。』

 

  

 

かなり強引で不自然な誘い。


ナチも誘いながらもっと巧い口実は無かったものかと半ば自分に呆れつつも、

電話の向こうのリコはなんとも快くオーケーしてくれた。

しかし快諾するリコの声の奥にも隠しきれない『?』マークがいっぱいだった。

 

 

 

 

 

翌日、ナチが約束の昼過ぎにリコの家にやって来た。


本来なら一人でこっそり偵察したいのだが、リュータの部屋の場所を知らない

ナチにはリコを頼るしかなかったのだ。

 

 

リコが自宅玄関から出て来て、『で? 散歩ドコ行く??』とルートを模索し

はじめる。その問い掛けも完全にスルーして、ナチは聞こえよがしな独り言を

呟いた。

 

 

 

 『そ、そう言えば・・・ リュータさん、今頃、何してるかなぁ~?


  ・・・ち、近いって言ってたよねぇ~? 家・・・。』

 

 

 

『連絡してみれば?』というリコの真っ当な意見も、ナチは片耳をカリカリと

掻いて聞こえなかったふりをした。

そしてチラっと横目でリコを盗み見、”欲しい一言 ”が出るよう心の中で手を

合わせる。

 

 

すると、『様子見に行ってみる?』とリュータの部屋の方向へ歩き出したリコ。

 

 

 

 

 『前に話した時に、大体の部屋の場所は聞いたんだよねぇ~。』

 

 

 

リコの口から ”欲しい一言 ”がまんまと飛び出し、ナチはこっそり肘を引き

小さく小さくガッツポーズをした。ナチの作戦通りだった。

 

 

 

ふたりはリコの家の坂道を更に上って、リュータのアパートへと向かっていた。

ほんの10分ほど歩いた先にあった古いアパートを見つけ、リコが指さす。

 

 

 

 『アパートの名前だけで決めたんだって。


  ・・・リュータさんらしいよね。』

 

 

 

アパートの2階手摺り部分に設置されたそれには ”ウルトラマンション ”と

あった。


どこをどう見ても木造2階建てアパートなそこに、ナチは心の中で『マンション

じゃないじゃん。』と片頬を歪め呆れつつも、本当に訪ねて来てしまった事に

途端に心臓は早鐘を打ち始める。

 

 

『確か・・・ 2階の、あの部屋だと思う。』と、腕を伸ばし指をさすリコ。


その方向を見てみると、窓が開いていて水色のカーテンが風にそよいでいる。

わずかにテレビの音も聞こえる気がする。部屋にリュータがいる気配だ。

 

 

ナチの全身が、ドク・ドク・ドクと音を立てて脈打つ。

 

 

ナチは窓の下からじっと様子を伺った。

口を真一文字に結びリュータの部屋から漏れ聞こえる音を逃さぬよう、首を反れ

るだけ反って真剣な表情で睨み続けるナチ。

 

 

その不可思議な様子に、リコがナチに呼びかける。 『・・・訪ねないの?』

  

 

すると、ナチは険しい目付きで『シッ!』と人差し指を口にあて、リコを黙らせ

ると片耳を向け更に聞き耳を立てて息を潜めた。

 

 

その時、

  

 

 

 

 『あおい! ちょっ・・・ 待てってば!! あおい・・・。』

 

 

 

 (!!!!!っ

 

 

  いた・・・ 確かにいた・・・


  ホントに、ホントに・・・ あおいが、いた・・・

 

 

  ・・・あおいって子と、一緒に・・・ 暮らしてるんだ・・・。)

 

 

 

思い切り青ざめて頬を引き攣らせているナチを見て、リコがその様子を察し声を

かけようとした、その時。

  

  

 

 『あれ・・・? お前ら、何してんの・・・?』

 

 

  

リュータが偶然窓から顔を出し、自分の部屋の窓を見上げる二人に気付いた。


その瞬間、ナチはあおいと顔を合わせたくなくて咄嗟にガバっと下を向く。

青ざめていた肌はどんどん赤らみ、痛々しい程に首の後ろまで真っ赤に染まる。

 

  

 

 『あぁ!!! その子・・・!!!』

 

 

 

隣に立つリコが声を弾ませた。

その声色は驚いていて、そしてなんだかやけに嬉しそうで。


ナチはギュっと目をつぶって、決して顔を上げなかった。力無く体の横で垂れて

いた手は急激に力んで拳を作り震える。

それに連動するように、寒くもないのに体も小刻みに震えはじめた。

 

 

 

 『ねぇ、ナチ?


  ・・・ほら、ナチってばぁ!!』

 

 

  

リコが手を当ててナチの肩をゆらゆらと揺らす。

 

  

 

 (ヤだ・・・


  もぉ、ヤだ・・・


  ・・・やめて、見たくなんかない・・・。)

 

 

 

今にも泣き出しそうに俯いたままのナチへ、リュータが呑気に呼び掛けた。

 

 

  

 『ちょっと上がってっかぁ? ・・・汚ねぇけど。』

 

 

 


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