■第35話 笑顔
リコは、今日一日の事を思い返していた。
自室のベッドに深く腰掛けて、胸に抱いたクッションにぎゅぅうっと力を込める。
首を反らして天井を仰ぐと、様々な想いが込み上げてじんわりと視界が揺らいだ。
もう自分の素直な気持ちから逃げたくない。
自分に嘘を付いて後悔なんかしたくない。
見つめていたい視線の先から目を逸らしたくない。
どうせ胸が痛むのなら、”逢えない痛み ”より ”見つめつづける痛み ”の
方がまだマシに思えた。
コースケの本当の気持ちを知って、リコは自分の想いが叶うことはないと思い
知らされつつも、それでも更に、昨日よりももっと熱を帯びた想いが高まって
いる事に気付かされてしまったのだ。
(好き・・・
不器用で、要領悪くて、頑固で、呆れるくらいまっすぐで。
・・・そんなとこ全部、
やっぱり、コーチャン先生が大好き・・・
あんな人には、きっと、もう会えない・・・
だから、
好きにはなってもらえなかったとしても、
せめて嫌われないようにしたい・・・
堂々と胸を張って傍にいられる自分でいたい・・・
想い続けるためにも、私も強くならなくちゃ・・・。)
その夜、何日かぶりにリコは泥のようにぐっすり眠った。
夢を見ることもなく、吸い込まれるように深い深い眠りの渦にいざなわれた。
翌朝、目覚まし時計が鳴るより先に目が覚めると、昨日までとはどこか違う
眩しく差し込む朝陽を感じ、両腕をぐんと伸ばして胸いっぱいに大きく息を吸い
込む。
なんだか胸が高鳴り心が弾んで、じっとしているのが勿体ない。
昨日までと同じはずの景色もなぜかキラキラと輝いて見える。
(さぁ!! 今日からまた、元気に歩き出そう・・・。)
まっすぐ前を見据えるリコに清々しい風がそよぎ、そっと黒髪が揺れた。
その目にはもうウジウジと悩み狼狽える揺らぎは無くなっていた。
ほのかに高揚した頬には、凛とした笑顔が戻っていた。




