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■第34話  峠の告白


 

 

リコが静かに話し始めた。

それは囁くようなそれで、呆気なく山頂の風に掻き消されそうだったけれど

何故か胸の内に沁みるように入り込んでくる。


リュータはただ黙って、真っ直ぐ峠の景色を見つめたまま聞いていた。

 

  

 

 『私ね・・・


  コーチャン先生のこと、好きなの・・・


  知ってると思うけど・・・。

 

 

  ずっと想ってる人がいるって聞いても、


  それでもいいって、思ってた。

 

 

  でも・・・ この間の・・・


  ・・・あの人、 なんだよね・・・?

  

 

  あの姿みたら、なんか、もう、私・・・

 

 

  自分でもどうしていいか分かんないくらいに、


  ・・・ほんと馬鹿みたいに、パニックんなっちゃって・・・。』

 


 

そしてまた、長く、沈黙が続いた。


リコとリュータ、互いの呼吸の音がはっきりと聞こえる。それは瞬きをする

まつ毛が上下する音すらも聞こえてしまいそうな静寂だった。

 

 

すると、リュータがポツリ話し始めた。

 

  

 

 『コースケにはさ。 兄ちゃんがいんだよ。


  今は行方くらまして、ドコにいるのか分かんねぇけど・・・。

 

 

  ・・・マリさん ・・・この間の、あの人な?

 

 

  マリさんは、兄ちゃんの彼女。


  タクヤは、その子供でさ・・・。

 

 

  兄ちゃんが消えてから、コースケはマリさんとタクヤを


  ずーぅっと、一人で守って生きてんだ・・・


  誰になにを言われようが、ぜってぇ考え曲げずに。

 

 

  ・・・あの二人を、ずーぅっと支えて生きてる。

 

 

  これからもずっとそうなのか、いつかは終わるのか、


  誰にも分かんねぇんだけどな・・・・・・・・・・・・。』

  

  

 

リコはコースケがタクヤを愛情込めて全身で受け止める姿を思い出していた。

そして、夕暮れのなか佇むマリの元へと、真っ直ぐ瞬きもせず駆け出す背中を。

 

  

すると、リコからひとつ小さな溜息が落ちた。

 

  

  

 『・・・コーチャン先生、らしいね・・・。』

  

 

  

そう呟くと、リコは下を向いて少し笑った。

呆れたように感心したように、どこか納得したように。


つやつやの黒髪が小さく揺れ、細い肩が切なく震え始める。

 

  

  

  『・・・声。 出した方が、ラクんなるぞ・・・。』

  

 

  

そう言うと、リュータは膝の上に置いていたヘルメットをリコの頭に被せた。


グググと少し窮屈にそれが収まり視界が遮られた途端、リコは堰を切ったよう

に声を上げて泣いた。まるで幼い子供が泣き叫んでいるかのように、心が引き

裂かれそうな痛々しい泣き声がヘルメットの中でくぐもって響く。

 

 

泣きじゃくるヘルメットの頭に優しく手を置き、リュータは悲痛な泣き声が

おさまるのを隣でただずっと見守っていた。

  

 

  

 

 

午後になり自宅へ戻ると、ナチが心配そうにリコの帰りを待っていた。


リコ帰宅のバイクのエンジン音に慌てて玄関から飛び出して来ると、何も言わず

ナチは思い切りリコに抱きついた。

ナチの華奢な体が驚くほど熱くなって震えている。リコはそっと体を離して見つ

めると、ナチは涙で潤んだ真っ赤な目をしてぎこちなく微笑んだ。

 

  

 

 『・・・心配かけて、ごめんね・・・。』

 

  

 

やっと言えた涙で詰まったリコのひと言に、ナチがもう一度ぎゅっと抱き付いて

何度も何度も大きく頷く。


玄関先だということも忘れて、ふたり、ぐしゃぐしゃになって泣いた。

  

  

 

ヒョコっと居間から顔を出したリクが、そんな泣きじゃくるリコ達を後方で優し

く見守るリュータに向かって親指を立てて目で合図をする。 ”グッジョブ!”


すると、リュータも同じように親指を立てて返した。

 

 

同時に二人で満足気にニカっと笑った。

 

 

 



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