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■第33話 峠


 

 

夜が明けたばかりの街並は、車の通りも殆どなく澄んで静まり返っていて

まるでこの世界にリコとリュータふたりだけのように感じた。

 

 

ぐんぐんスピードを上げて、バイクは街を駆け抜けてゆく。

 

 

最初はじめてのバイクが怖くて遠慮がちにリュータにしがみ付いていたリコも

勢いよく吹き抜ける風がなんとも心地よくて、次第に怖さも無くなっていった。

 

 

暫しひと気のない早朝の中心街を走った後、街外れのコンビニに滑り込みバイク

を止めた。

リュータは上着の左袖を軽く捲り腕時計で時間を確認すると、顔だけ後ろのリコ

に振り返って自分のケータイを差し出す。そしてヘルメット越しのくぐもった声

で言った。

 

  

 

 『母ちゃんに電話しとけ。』

 

 

 

リコはリュータに言われるがまま、訳も分からず慌てて家を飛び出して来ていた。

そう言えば何も持たずに身一つで出て来ていたのだ。


必要最低限のケータイも財布も、何もかも。

誰にも、何も告げずに。

 

 

リュータの言葉にコクリと頷き、借りたケータイで自宅の電話番号を入力する。

 

 

 

 (お母さん、私がいないの気付いてたかな・・・?


  ・・・学校サボっちゃうこと、怒られるだろうな・・・。)

 

 

 

叱られる覚悟を決めて、リコはそっと左耳にケータイを当てる。

そして、それはまだこんなに朝早いというのにワンコールだけで繋がった。


リコからの電話に母ハルコはだいぶ驚いていたけれど、最近のリコの様子に心

を痛めていただけに『気晴らししておいで。』と快く送り出してくれた。

ハルコが信頼しているリュータが一緒だという事も安心材料になっていた。

 

  

 

そして、再びバイクは走り出す。

 

 

高い建物が多い街を通り、街外れの住宅街を抜け、山の道へと走ってゆく。

もう店も民家もなにも無い、緑のトンネルのような一本道になってしまった。


最初その一本道に、なんだかもう二度と引き返せないような閉塞感を感じ、

胸がざわざわするような不安が込み上げたが、次第に陽が照りはじめ道脇の

青々とした木々の葉っぱがキラキラ光って輝きだすと、一気に夏の青いにおい

と虫の音、空気のざわめきが立ち込めた。


リコは体に受ける生ぬるい夏風に、目を細める。

 

 

  

 『キレイ・・・・・。』

 

 

 

小さく呟いた。

それは体の奥の奥まで沁み渡るような目映い色の空気だった。

 

 

  

 

 

自宅を出発してから3時間くらい経ったのだろうか。

リュータとリコは山の頂上の峠茶屋に到着していた。


そこは小さな土産物屋とトイレがあり、この峠を通る車の休憩所になっている。

数台並ぶ自動販売機の横に簡易テーブルとイスが置かれている。まだ早い時間

だったが広めの駐車場には長距離運転のトラックが数台停まって休憩していた。

 

 

リュータはバイクから下りてヘルメットを外すと、気怠げに頭を左右に振り潰れ

てペシャンコになった髪の毛を揺らした。そして無言でリコへとヘルメットを

渡すと、一人茶屋に向かってゆく。


リコはその後ろ姿をじっと見ていた。店のガラス戸が呆気なく横にスライドされ

リュータが店内へと消えてゆく。こんな時間から店が営業している事にリコは驚

いた。

 

 

程なく、リュータが両手に二人分のホットドックと飲み物を持って戻って来た。

そして『ん。』と、リコの胸に押し付ける。

 

  

 

 『ぁ・・・ あとで、ちゃんとお金返すから・・・。』

 

 

 

リコが財布を持ってきていない事を気にして、申し訳なさそうにそう言うと、

 

  

 

 『ぼくぁ~ お前よりか、ずっとオトナですから~


  こんくらいは、お茶の子さいさいよ~ぉん!』

 

 

 

と、リュータはとぼけた顔をしてホットドックを豪快に頬張った。


その捉えどころのない横顔を目に、リコは手渡された生ぬるいホットドックに

目を落とす。掛け過ぎのケチャップの赤色とマスタードの黄が、この澄み渡った

山頂の空気に不釣り合いな気がして、恐る恐るそれに口を付けた。

 

 

最近まともに食事を摂っていなかった、リコ。


何を口に入れても味気なく感じていた。食べなければ周りに心配をかけてしまう

から無理やり食べてはいたけれど、それはいつもより明らかに少ないもので。


しかし、今、峠で食べている安っぽいホットドックはなんだかやけに美味しい。

湯通ししただけのウインナーもパサパサ感が否めないパンも、やはりバランスが

悪い掛け過ぎのケチャップも、どうしてかすんなりとリコの喉を通って落ちた。

気付が付くと、夢中でかぶり付き食べていた。


リュータがチラリとその様子を盗み見て、かすかに口元を緩めた。

  

  

 

 

 

土産物屋の駐車場脇にあるベンチに二人で座る。


そこは山並みの景色を遠く一望できて、雲ひとつない真っ新な空の青とキラキラ

輝き生い茂る樹々の緑が最高の眺めだった。

 

 

暫く二人で何も語らずその景色をただ見ていた。

山の彼方から小さく響く鳥のさえずりと、それをかき消すやわらかい風の音。


リュータが『くぅうう~!』と両腕を高く上げて、大きくひとつ伸びをした。

 

  

  

 『リュータさん・・・


  ・・・心配してくれてるんだよね・・・・・・・・・・。』

  

  

 

リコが静かに口を開いた。

 

 

 


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