■第31話 リクからのSOS
その日以来、リコはナチにあの日の話は一切しなくなっていた。
ナチも ”コースケの真実 ”をリコに話すべきか、ずっと悩んでいた。
”居なくなった兄の彼女を支え、誰よりも何よりも彼女を優先させる ”
そんな事リコにどんな顔して話せばいいのだろう。
ただの淡い片想いや恋心とは種類の違うコースケのそれを、どんな言葉で伝え
ればいいのだろう。
いつも元気なナチも眠れなくなるくらいに考えた。そして、落ち込んでいた。
まるでなにも無かったかのように振舞うリコの華奢な背中を、ただただ潤んだ
目で見つめることしか出来ずにいた。
しかし、ナチはリコを信じていた。
リコの気持ちがほんの少しでも落ち着いたら、きっと正直な気持ちを話してく
れると、ナチは心から信じていた。その時は一緒にいっぱい泣いて、愚痴を聞
いて、なんなら思い切り理不尽に悪態ついたっていい。
それまでは、じっと待とうと決めた。
そして、リュータもリカコもとてもリコを心配していた。
あの日の消えて無くなりそうなリコの心許ない背中を思い出す。
しかし、リコに直接連絡していいものか迷っていた。
コースケに繋がる人間とは、もしかしたらもう連絡など取りたくはないかも
しれない。周りが余計に口出すことで更に傷を深めてしまうかもしれない。
やはり、リュータもリカコもリコが自分の足で前へ進むのを待つしかなかった。
リコは、学校では痛々しいほどに明るく普通に振舞っていた。
テレビ番組の話、芸能ニュース、友達の噂、元気にしゃべっては笑った。
事情を知らないナチ以外の友達には、それは通常通りのリコに映ったのだろう。
しかし、家に帰ると部屋に閉じ篭り、食欲もなく、家族とも必要以上には言葉を
交わさなくなっていった。母ハルコが体調不良かと心配するも、無言で首を横に
振るだけでリコはなにも語らない。
そんなリコを一番心配していたのは、実は、弟のリクだった。
『もしもし・・・? リュータ・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・リュータぁ・・・。』
ある日の夜遅く、リュータのケータイにリクから電話があった。
ケータイを持たないリクは、家族が寝静まった深夜に自宅の固定電話から掛け
ていたのだ。
『・・・リクかっ? ・・・どした??』
リュータの優しい声に、リクは少しホっとしたのか電話口で泣き出した。
ヒックヒックとしゃくり上げる声が電話越しに暫し続き、やっと言葉になった
それは切ない程に小さくて、そして苦しいくらい姉への愛情が込められていた。
『リュータぁ・・・ 助けてよぉ。
お姉ちゃんが・・・
・・・お姉ちゃんが、なんか・・・ 変なんだよぉ・・・。』
それは、リクの精一杯のSOSだった。
たかが小学生のリクをもこれほどまでに不安にさせる程、リコは落ち込み息も
絶え絶えな状況になっていた。真面目で真っ直ぐなリコだからこそ、そうなって
しまうかもしれないという事を、リュータも頭の何処かでは分かっていたはずな
のに。
何もしないで黙って見ているのはやめようと、その時リュータは思った。
例え残酷だったとしても、リコに真実を告げようと。
そんな事も知らず、リコは今夜も眠れない夜を過ごしていた。
出窓にそっと腰掛け星空を眺める。
月が隠れた今夜は天の川がハッキリ映る。いて座付近は天の川の一番濃い部分で
飛沫があがる天の川の滝つぼのようだ。
しかし折角のキレイな星空なのに、滲んでかすみ、リコの目にはぼやけて映る。
瞬きをする度に、涙の雫が流れては落ちた。
あれから毎晩泣き続け、枯れたかと思われた涙はそれでもまだリコの頬を濡らした。
こんなにツラいなら、
好きになんかなんなきゃ良かった・・・
また一筋、透明な粒が流れた。




