■第27話 タクヤ
『コーチャンせんせえーーー!!!』
コースケへ駆け寄り、思い切り抱きついたタクヤ。
真夏の太陽みたいな眩しい笑顔で、その小さな体いっぱいにコースケへの愛情
を表しているようなはしゃぎ具合で。
『どした?たっくん。
あれ・・・? 今日は保育園??』
ひまわり保育園では、土曜も園児を預かっていた。
タクヤの母親は土曜も隔週で忙しく仕事をしていて、今日はタクヤは保育園の
日だった。しかし、午後3時をまわり殆どの園児は親が迎えに来て帰ってしま
って、園に残っていたのは今はタクヤ一人だけだったのだ。
コースケは園の保育士にタクヤは庭で預かることを伝え、一緒にバーベキュー
に加わらせた。
コースケの膝にちょこんと座り、足をバタバタとバタつかせ嬉しそうにはしゃ
ぐタクヤ。あまりに落ち着きなく動き回るそのわんぱくぶりに、コースケも声
を上げて愉しそうにケラケラ笑う。
コースケ自身タクヤが可愛くて仕方ないらしく、頭をガシガシ撫でたり体をく
すぐってみたり、食べやすく小さく切り分けた焼肉を食べさせたりしている。
実家が保育園だというだけで、大勢いる中の園児の一人にもこんなに愛情を掛
けるコースケに、リコは少し面食らうくらいだった。
それが皆が言うコースケの ”底抜けの優しさ ”というものなのだろうか。
『なんか、まるで親子みたいですね~。』
その光景があまりに微笑ましくて可愛らしくてコースケらしくて、リコも頬を
緩める。
すると、タクヤがニコっと笑った。
眩しそうに目を細め頬を高揚させ、優しいやわらかい顔で。
『心なしか・・・
・・・なんとなく、似てる気が、するし・・・。』
そうリコが呟くと、ほんの少しの奇妙な間がありコースケはいつもの困った顔
で微笑んでみせた。
タクヤはとても元気な男の子で、人懐こくて可愛かった。
コースケからお腹いっぱいに焼肉やらお菓子を食べさせてもらった後は、リコ
とナチの手を握って引っ張り、グラウンドへと誘う。
三人は園のグラウンドへ駆け出し、鬼ごっこをしたり遊具を使って遊び始めた。
コースケとリュータ・リカコはバーベキューセットを囲んだまま、そんな三人
の愉しそうに遊ぶ様子を遠目に眺めていた。
タクヤが嬉しそうに走ったり飛び跳ねたりして、おもちゃのピアノのような
コロコロとした軽快な笑い声を上げる。
その小さな小さな背中を見つめ、リュータが言った。
『・・・たっくん、何歳んなった?』
すると、コースケが困った顔で微笑み少し俯きながら『4歳・・・。』と返す。
『もう・・・・・ 4年経ったんだ・・・・・。』
リカコが小さく小さくため息をついた。
片手に掴んでいたビール缶がほんの少し指先に込められた力にペコっとへこむ。
コースケはそんな二人へと視線を移動し横目でチラっと見ると、『ハハハ』と
乾いた笑い声を落とした。それはあまりに哀しげで一瞬の風に吹かれて消えた。
リュータとリカコはコースケに言いたい事が喉元まで込み上げたが、それは言
わずに飲み込んだ。
三人の間に言葉に出来ない重く湿った空気がまとわりついていた。
そんな会話があった事など、リコは全く知らなかった。
時間を忘れて休日の午後を楽しみ、気が付くと少し薄暗くなってきた夕刻。
5人はバーベキューの後片付けを始めていた。まだまだみんなでこうしていた
い気持ちは山々だが、楽しい時間には必ず終わりがくるものだ。
ゴミをまとめたりビール缶を潰したり炭を処理したり、各々が取り組んでいた。
コースケがイスを片付けるため物置へと運んでいた時、タクヤの甲高い声がグラ
ウンド中に響き渡り、脇目もふらずその小さな体は真っ直ぐ駆け出した。
『ママーーーーーー!!!』
その瞬間、コースケの持ち上げていたイスがガラガラと音を立てて足元へ散ら
ばった。イス同士が乱雑にぶつかり合い、イスの背にはグラウンドの土が付い
て汚れてしまった。
リコはあまりの大きな音に驚き、何事かとコースケを見つめる。
『大丈夫?
・・・・・・コーチャン先生・・・?』
すると、
コースケが、遠くグラウンドを身動きひとつせず見つめいてた。
瞬きもせず、まるで呼吸まで止まってしまったかのように。
タクヤが喜び駆け寄る、その先を。
華奢で小柄な女性が、タクヤを優しく抱きしめていた。




