■第26話 バーベキュー
◆From:コーチャン先生
◆Title:今度の土曜
◆俺ん家の庭でみんなでBBQしない?
コースケからみんなへ一斉送信された、バーベキューの誘い。
以前 ”またこのメンバーで集まろう ”と言ったコースケのその言葉は、
その場限りの社交辞令でもなんでも無かったのだと、リコはケータイの画面
を見つめて頬を綻ばせた。
久しぶりにコースケに逢える事に、純粋に心から喜んでいたリコ。
しかしナチはリュータにまた逢えるのは嬉しいが、あの日の小さな胸の痛み
に不安を憶えていた。
それぞれ胸に秘めた想いを抱えながら、その日を迎えていた。
午後2時に商店街のスーパー前で待ち合わせた5人。
みんなで買出しをするはずだったのだが、直前にリュータから連絡があり寝坊
で遅刻するという。呆れてリュータとの電話口で笑っているコースケを横目に、
ナチはどこかホっとしたような顔をして胸を撫で下ろした。
取り敢えず、コースケ・リコ・ナチ・リカコの4人で買出しを始めた。
コースケがカートを押し、スーパーの通路をのんびり進む。
ナチとリカコは、これでもかというくらい無計画に食材をカートに放る。
どんどん山積みになってゆくカートに『ぉい、大丈夫かよ・・・。』と心配そう
な顔でぼやくコースケ。いつもの困ったように見える顔は、今回ばかりは本当に
困って眉尻が下がるだけ下がっている。
リコはそのカートを押す大きな痩せた背中を笑いながらこっそり見つめていた。
ナチはお菓子コーナーで一人しゃがみ込み、真剣な顔をしてスナック菓子やら
チョコやら手に取って選んでいた。まるで遠足前の小学生のような面持ちで、
取捨選択に夢中になるナチのすぐ隣に、同じようにしゃがみ込みこちらに顔を
向ける気配があった。
最初それを特に気にしていなかったナチだったが、気まずいくらいの至近距離
にさすがに面食らって、鋭く睨むようにしかめ面をその隣人へと向けると。
『ソレ、焼いて食うの?』
リュータが、笑って指さした。
長い手足をコンパクトに縮めてナチの真似をしてお菓子コーナーの通路にしゃ
がみ、驚きすぎて声が出ないナチが握りしめるお菓子を指先でツンツンとつつ
いて。
瞬きも忘れて目を見開き、リュータの優しく笑う顔を見つめるナチ。
『ん~?』 リュータは無反応なナチに可笑しそうに尚も笑う。
ふと見ると、リュータの後頭部の髪の毛が寝癖で少し飛び跳ねていた。
ナチは急激に恥ずかしくなり、慌てて目を逸らした。
しゃがんだ自分のスニーカーの爪先に目を落とし、突然暴れ出した心臓を必死
に鎮めようとこっそり深い呼吸を繰り返す。
なんだかリュータの顔がまともに見れなくなっていた。
(普通にしなきゃ・・・ 普通に・・・ 普通に・・・。)
すると、ツンと顎を上げ目を眇めてリュータの寝癖を指さし『寝癖。ダサッ。』
と言い放った。
しかしナチの指摘を全く気にする様子もなく、リュータは呑気にイヒヒと笑う。
『起きたの15分前だし、しゃーないじゃん?』
そののんびりとした空気に、ナチの強張った心臓が解きほぐされてゆく。
二人で顔を見合わせると、ぷっと吹き出して笑った。
買出しは、5人が5人共買いたい物をカゴに入れたものだから凄い量になって
いた。コースケとリュータが重い荷物を持ち、軽めの物をリコ・ナチ・リカコ
で持って歩く。ただみんなで商店街を歩くだけで、スーパーボールが弾む様な
色とりどりの笑い声が溢れていた。
保育園の裏手へ回ると、小さなスペースだったが小綺麗に整えた庭があった。
既に準備されているバーベキューセットには、丁度いい頃合で炭が熾きている。
軍手をはめたコースケが物置からイスを5脚持ってきた。
一度に運ぼうと無理やり腕に絡めて持つそれを、リコが駆け寄って引き受ける。
『ありがと。』 目を細めるその顔だけで、リコの胸は高鳴って熱を帯びた。
午後の少し暑い日差しの下、5人でよく食べ、よくしゃべり、よく笑った。
コースケ・リュータ・リカコはビールやチューハイでテンションが上がり、
いつもより大きい声で騒いでいる。
夏の蒸した風に、みんなの笑い声が流れて響く。
ただただこの5人で集まるだけで愉しくて仕方なくて、口に出さずともみんな
がこのなんとも言えない心地良さを感じていた。
すると、小さい男の子がパタパタとこちらへ駆け寄ってくる姿が見えた。
『コーチャンせんせえーーーぇ!!!』
あの日の、たっくんという子だった。




