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■第174話 お兄ちゃんは心配性


 

 

『最近、アカリからなんか訊いてっか?』 リュータがなにか考えあぐね

るような怪訝な顔をして、真剣な声色でにナチに訊いた。

 

 

アカリ不在のリュータ兄妹のアパートのリビング。


リュータはソファーにゴロンと寝転がり、ナチは床のラグにペタンコ座り

をしてリュータに背中をもたれている。付けっ放しの然程興味も無いテレ

ビ番組をなんとなく見ているリュータと、リュータの部屋から持ってきた

少年漫画を読みふけっているナチ。互いに別々の事をしなにも喋らない時

間にも安らぎを感じる程、二人でいる事が自然なことになっていた。

 

 

 

 『なんか、アイツ・・・


  バイトが入ってる日は、すげー機嫌悪くてさ・・・


  マトモに口もきかずに部屋に閉じこもるんだよ・・・

 

 

  バイト先でうまくいってないのかな?』

 

 

 

そう呟いて仰向けに寝そべっていた体勢から、片肘を付いて横向き寝に

なった。ナチに問い掛けてるくせにその返事も待たずに、ブツブツと一

人で延々呟き続ける、妹アカリを心配して頭を抱え込む兄の顔をナチは

真っ直ぐ見ることが出来なかった。


リュータを振り返ることもせず、下を向き漫画本で顔を隠して決してそ

の表情を見せないナチ。その小さな肩はなんだか心許なく微かに震えて。

 

 

それに気付いたリュータが、そっとナチの肩に手をおいた。

そしてポンポンと優しくバウンドして、なだめるように囁く。

  

 

 

 『ナチ・・・


  大丈夫だって、きっと心配することな・・・』

  

 

 

『ぶはははははっ!!!』 リュータの言葉を遮り、ナチが我慢しきれ

なくなってふんぞり返って吹き出し笑った。腹を抱えてラグに突っ伏し

て涙を流しながら笑い続けている。


その様子を、なにがなんだか分からずポカンと見ているリュータ。

 

 

そして、事態を呑み込んだ所でナチの頭を思いっきり漫画で殴った。

  

 

 

 『なに笑ってんだよっ?!


  こっちが真剣に心配して言ってんのによぉ!!』

 

 

 

ナチはなんとか笑いを堪えながら、どうしても緩んでしまう顔をいなし

『ごめんごめん』と謝る。しかし中々ニヤニヤは止まらない。俯いて両

手で口元を隠し無意味に咳払いを繰り返すも、その手の奥の口元はやは

り笑いを堪え切れずにふるふると震える。

 

 

リュータは横寝の体勢から起き上がってソファーに腰掛け、ナチの顔を

まじまじと凝視した。なにかを探るように、細く目を眇めて。

  

 

 

 『お前・・・


  ・・・なんか知ってんだな・・・?』

  

 

 

そう低く呟くと、リュータはナチに飛びつき体をくすぐり始めた。

指10本を滑らかに蠢かし、ナチの脇腹を上に下にと刺激しまくる。

 

 

 

 『やめてっ! やめてーー!!!


  やぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!』 

 

 

 

ナチは体をよじらせ、手を伸ばしてリュータを押しのけ必死に抵抗する。


くすぐられて苦しそうに笑っている隙間で、やはりリュータの兄馬鹿っ

ぷりが可笑しくて、笑いながらも悲鳴を上げ感情はごちゃ混ぜで。 

 

 

 

 (高校生君の事バラしたら、アカリに殺される・・・。)

  

 

 

ナチは必死に抵抗を試みるもリュータの男の力に逆らう事は出来ず、仕

舞いにはラグに仰向けに倒され両手を掴まれて、もう完全に身動きがと

れなくなっていた。

  

 

 

 『早く吐けっ! この裏切り者めっ!!』

  

 

 

それでもナチは口を固くつぐみ、首を横に振ってリュータに口を割ろう

としない。暫し目を逸らさずに睨み合うも、両者一歩も譲らず。


すると、リュータはナチの一貫した強情さに白旗を揚げ、掴んでいた手

を離し引っ張って起き上がらせる。

 

 

ナチは自らの勝利を確信し負けん気の強い笑みを小さくこぼすも、ふと

リュータに掴まれていた手首を見ると、少し赤くなってジリジリと熱を

持っていた。

ナチがその痛む部分を他方の手でさすり、手首を返してじっと見つめる。

 

 

それに気付いたリュータが少し慌てて『ぁ、ごめん・・・。』と小さく

謝った。まだらに赤くなったその細い手首を恐る恐る掴んで、優しく優

しく撫でて、機嫌を伺うようにナチの顔を覗き込む。


そして、ナチの頭にチュっとキスをした。

 

 

リュータは体育座りの体勢でナチの背後から抱きつき、首のあたりに顔を

うずめて『ごめんな。』とまた謝る。


ちょっと赤くなっただけなのに、やけに大仰に反省して落ち込んでいるリ

ュータが可笑しくて可笑しくて、ナチは思わずやわらかく微笑んだ。

 

 

そして、イタズラっ子のような顔で口を尖らせ体を後方へ仰け反りリュー

タを睨む。

 

  

 

 『痕が残ったら、もうお嫁に行けないかもー!!』

 

 

 

そう言ってわざと大袈裟に目を眇めるナチに、リュータはさも当たり前の

ようにサラっと言った。

 

 

 

 『ヨソん家には行かなきゃいーんじゃん?』

 

 

 



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