■第173話 OK?
相変わらずヒナタは、毎日毎日めげずにアカリを誘う。
雨の日も、風の日も、アカリが不機嫌な日も、無視する日も、鬼の形相
で睨み付ける日も、何処吹く風と全く気にせずに。
バイトの休憩中にアカリにドリンクを渡しながら、『で? 返事は?』
店長に叱られたアカリを上手にフォローしながら、『で? 返事は?』
バイト終わりの反省会でニコニコ笑いながら、 『で? 返・・・』
『うるっっっさいわねっ! 分かったわよ、分かったわよ!!
行きゃぁああいいんでしょ、行きゃぁああ!!』
遂にアカリが折れた。
こんなに素っ気なく冷酷に断っても蔑んでもめげない人なんて初めてで、
もうどうしていいか分からないというのが本音だった。
その最高潮に機嫌が悪いアカリの引き攣った顔を盗み見てイヒヒと笑い、
ヒナタが満足気にゴソゴソとカバンからケータイを取り出した。
そして可笑しくて堪らない感じで頬を緩めながら画面を開く。
アカリは舌打ちを打つ勢いで、それをただ頬を歪めて睨んでいた。
暫し、そのケータイをただただ見つめる二人の間に謎の沈黙が流れ・・・
『番号、番号!』 と相変わらずの笑顔で連絡先をねだったヒナタ。
アカリはやっとそこでヒナタが連絡先交換をする為にケータイを差し出し
ていた事に気付くも、照れくさくてイライラして思い切り理不尽に怒鳴る。
『・・・そ、そんなの自分で考えなさいよっ!!』
ここ最近マリアナ海溝よろしく刻まれているアカリの眉間のシワが、増々
深く深く刻まれる。ヒナタに向け上げた大声が店の駐車場に反響しバイト
終わりのスタッフが居た堪れない苦い顔をして足早に帰ってゆく。
ヒナタは、そのアカリの意味不明な絶叫に一瞬固まり、そしてまじまじと
穴が開くほど見つめた。
そして、声をあげて笑った。涙を流しながら身体を屈め、よろけながら息
苦しそうに笑い転げている。
『自分で考えろって・・・
番号が偶然ヒットするまで、
何億通り考えなきゃダメなんですか・・・。』
尚も笑い続けているヒナタ。
あまり背は高いとはいえないが適度に筋肉がついたしなやかな身体で、
健康的に日焼けしたその顔で、つぶらな目を楽しそうに細めて、大口開
けて笑うその口元には片方だけ八重歯が覗いて。
本当に純粋に楽しそうに笑う。
アカリはそんなヒナタを横目で睨むも、なんだかつられてちょっと笑いそ
うになって思わず咳払いをして堪えた。
そして、『死ぬまで笑ってろっ!!』と吐き捨てて家路へ向かって歩き出
した。アカリが履くミュールの高いヒールが、アスファルトをカツカツと
踏みしめる音が夜空に響いている。不機嫌そうに足早に歩きながら、長い
髪の毛をそのリズムに乱暴に躍らせながらも、背後に置いて来たヒナタの
ことを考えていた。しかめていた顔は次第にどこか心許ないそれに変わる。
(また、振り返ったら・・・。)
そう考えて、アカリは今夜は振り返らなかった。
きっと振り返ったなら、ヒナタはまた手を振ってニコニコ笑ってこっちを
見ているはずだから・・・
アカリは不本意ながら頭の中を占領するヒナタをなんとか追い出そうと、
目をぎゅっとつぶりかぶりを振った。
なんだか胸の奥の奥の、みぞおちの更に奥の、深い部分に違和感がある。
モヤモヤというか、チクチクというか、ムズムズというか。
どうしようもなく居心地が悪くて落ち着かなくて、アカリはナチへライン
をしながら夜道を歩いた。
’アイツ、やっぱムカつく。 ’
すると、
’アイツって? ’
ナチは重々承知しているくせに、わざとスッ呆けて訊き返す。
’バイト先のアイツだよ!!
超ムカつくんだけど。意味わかんないし。 ’
アカリの怒りは収まることを知らない。
’ああ、アカリにゾッコンの高校生君ね?(笑)’
ナチは尚もアカリをからかう。ケータイを見つめるその顔はニヤニヤと
厭らしく緩み、背中を丸めてクククと笑いながら。
すると、思い切りからかわれてる事に気付き、アカリのボルテージは一
気に急上昇。通りで立ち止まりその場で一人地団駄を踏んで悔しがった。
『ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!!』
『ぉ。おかえ・・・』
『うるっっっさいっ!!!』 またもやリュータの ”おかえり ”は空
振りとなり、虚しくリビングにこぼれ落ちる。
アカリは乱暴に自室のドアをバタンと音を立てて閉め、ベットに倒れこ
んで顔を突っ伏しため息をついた。




