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■第172話 テスト?


 

 

 『いらっしゃいませ~、


  お客様、店内でお召し上がりですか~?』

 

 

ニコニコととても愛想のいい店員の笑顔を、ナチは半笑いで見つめて

いた。どうしても緩んでしまう頬を必死にいなそうとするも、そっち

に意識がいくと今度は口元がふるふると震えてしまう。


一向に注文せずにニヤニヤと不気味にほくそ笑むナチにも、怪訝な顔

ひとつしないその店員の影に隠れてバックヤードから半分顔を出し、

アカリはムキになってナチへと眇めた険しい目で合図を送っていた。

 

  

 

それは、3日前のこと・・・

 

 

 

 『ええええ?! 年下の子からぁあああ~?!』 

 

 

 

ナチが飛び落ちそうな程に目を見開き、たった今聴こえたそれに真っ赤

な顔をしてたじろぐ。

 

 

 

 ”バイト先の年下が生意気にデートしようとか言ってきやがった ”

 

 

 

結局のところアカリの話を要約するとこの一言だったのだが、最初は慌

てて電話を掛けてきて、その時は『どうしよう、どうしよう』ばかりで

ナチには何が起こったのか全く理解出来なかった。


その為その翌日にアカリの部屋にわざわざ出向き、ナチはあの手この手

を使って話を聞き出しやっと事態を把握出来たのだった。

 

 

どうしてもニヤニヤ緩んでしまう頬を誤魔化しもせずに、ナチは厭らし

くじりじりとアカリに詰め寄る。


アカリは眉根をひそめ不機嫌そうに何やらブツブツ呟き、一向に要領を

得ない。こんなに歯切れの悪いアカリなんて珍しかった。

 

 

『ゼッタイなんか魂胆あるに決まってる・・・。』 無意味に指先で爪

を弾き口を尖らせ呟くアカリに、ナチは小首を傾げ呆気らかんと言う。

 

 

 

 『はっ??


  魂胆なんてないでしょ?

 

 

  ただ、アカリに興味があるってだけじゃない?』

 

 

 

すると更にアカリは怒り出した。


腰掛けていたベッドからガバっと立ち上がったかと思うと、再び乱暴に

腰を下ろす。照れくさいのと恥ずかしいのと、あんな行動に出たヒナタ

に頭に来るのとで長い手足をジタバタと動かし暴れて。

 

 

  

 『ムカつくっ! ムカつくムカつくぅぅうう!!!』

 

 

 

 

 

 

それなら一度どんな子か偵察してみようという事で、ナチは今、アカリ

のバイト先に鼻息も荒く肩で風を切って馳せ参じていたのだった。

  

 

 

 (すっごく感じはいい・・・


  でも、ただの表面上の営業スマイルかも・・・。)

 

 

 

最初はただ単に面白がっていただけだったが、次第に目の前のヒナタの

感じの善さを本当に疑いはじめたナチは、ヒナタに無茶な注文をして様

子を見る。


しかし、次々と笑顔とスマートな対応でクリアしてゆくヒナタ。


ナチも半ば意地になって決して諦めない。影に隠れてその様子を伺うア

カリも真剣そのもの。仕事も放置して、穴が開きそうなくらいにカウン

ターでの二人の遣り取りを凝視している。

 

 

 

 『ねぇ。


  おたくの背だけ馬鹿デカい、アノ小生意気な店員。


  すっごい感じ悪くない~? あんなのさっさとクビにしたら??』

 

 

 

ナチの最終攻撃に、アカリが思わず舌打ちを打ってバックヤードから半

身出て来かけた。クレーム演技を通り越して本当に思ってる事を言って

いるだけのような、ナチのそれ。

 

 

すると、

 

 

 

 『それは、大変申し訳ありませんでした。


  お客様に不快な思いをさせてしまったのでしたら、


  しっかりと指導いたします。

 

 

  まだ、入ったばかりの新人でして・・・

 

 

  でも、彼女なりに一生懸命頑張っているところですので・・・


  どうぞお客様、是非ともまたいらして下さい。

 

 

  必ずいい店員になっているはずですので。』

 

 

 

その流暢な言葉に、ナチがポカンと口を開けてヒナタを見つめた。


チラっと視線をずらしヒナタの肩越しに後方を見ると、後ろのアカリが

赤くなって照れ臭そうに不機嫌顔をし、バックヤードの奥に隠れる。 

  

 

 

 『アナタ、最高じゃないっ!!!』

 

 

 

ナチがいきなり、カウンターを乗り越える勢いで身を乗り出しヒナタの

手を掴んだ。そしてブンブン振り回しながら、『合格!合格!』と何度

も何度も繰り返した。


目を白黒させ、されるがまま訳が分からないヒナタだった・・・

  

  

  

 

その夜の、バイト後のいつもの反省会。

 

 

ヒナタは今日来た変な客のことを笑いながらアカリに話して聞かせる。

アカリはずっとむっつりと黙り込んだまま俯いていた。

 

あまりに愉しそうにイキイキと話すヒナタに、アカリは腹が立って思

わずチクリと嫌味を言った。

 

 

 

 『・・・ってゆうか。


  随分、口がうまいんじゃん?


  変なクレームにもテキトーな嘘ですぐ切り返して・・・。』

 

 

 

しかし、ヒナタは一瞬キョトンとして、その刹那無邪気に笑う。

 

 

 

 『ん~?


  ・・・別に、本当の事じゃないですかー。』

 

  

 

そして、再び嬉しそうにニコニコ笑ってアカリに問い掛ける。

 

 

 

 『そんな事より。 ・・・デートの返事は?』

 

 

 

アカリが思い切りしかめ面をして、尚も不機嫌になった。

 

 

 


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