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■第167話 バイト初日


 

 

 『イラッシャイマセー 店内 デ オ召シ上ガリ デスカー・・・』

 

 

自動ドアが開き来客の合図のピロリロリロ~というチャイムが店内に鳴り響く

とまだ着慣れない制服に身を包んだアカリが、全く抑揚のない口調で入店して

きた客に言った。


気怠そうに首を傾げ少し顎を上げ、相変わらずスラリと細く長い脚を片方前に

出して。胸に垂れる緩く巻いた髪を指先でクルクルと暇そうに弄びながら。

 

 

それを目にしたヒナタがギョっとして、横から慌てて割って入った。

 

 

 

 『ちょ、ちょっとアカリさん!!


  もっと丁寧に、感じよく接客してくれなきゃ・・・。』

 

 

 

ヒナタの必死の指導にも、アカリは涼しい顔を向け全く気にしない。


実践に移る前にはしっかり顔を突き合わせてマニュアル片手に練習もしたと

いうのに、この有様だった。

 

 

全く悪びれることの無いアカリは、ツンと顎を上げ言った。

 

 

 

 『だって。


  私のマニュアルトークを聞きに客はやって来る訳じゃないじゃん?』

 

  

 

 

 

 

今日はアカリのバイト初日だった。


近所のファストフード店のカウンターに立ち、生まれて初めて接客のバイトを

するアカリ。


しかし全くヤル気は無かった。以前より大きな部屋に引っ越したため少しでも

家にお金を入れなければならないので、仕方なくはじめたバイト。渋々感はそ

の顔や態度から滲み出て、溢れて、ダダ漏れだった。

 

 

そんなアカリを、指導係になったバイトリーダーのヒナタがなだめすかす。

 

 

『アカリさん、いいですか? 僕の接客よく見てて下さいよ?!』 根気よく

見本を見せ指導するヒナタに、アカリは『あー、ハイハイ』と軽くあしらう。


左手首に付けた腕時計に目を落とし小さく欠伸をして、とっとと時間が過ぎる

事だけを考えていた。

 

  

 

22時、バイト終業。


怠そうに片手で肩を揉みながら、制服から私服に着替えたアカリはかなり適当

に『お先に失礼シマッス。』とボソっとこぼして店を出る。

すると、同じタイミングで退勤するヒナタも自然とアカリの後に続いた。

 

 

『アカリさん、もっとちゃんとしてくれないと~。』 ヒナタは尚も、バイト

リーダーモードのまま、アカリの接客のなってなさを指摘する。


それに若干イライラしたアカリ。最初は『ハイハイ』と流していたのだがそれ

も限界とばかり、ヒナタに向かって大きな声で言い返した。

 

 

 

 『アンタ、私より年下でしょっ?!


  ・・・イっチイチ、うるっさいのよっ!!』

 

 

 

すると、ヒナタは驚いて一瞬固まりアカリを凝視して、次の瞬間身体を屈め腹

を抱えてケラケラ笑い出した。

 

 

 

 『だって・・・


  僕は、バイト歴ではアカリさんより先輩じゃないですか~ぁ。』

 

 

 

ヒナタの至極真っ当な一言に、増々ムキになったアカリ。

『私よりチビじゃん!』 仕事に関係ないただの悪口が飛び出し、反撃する。

 

 

 

 『だってアカリさん、


  その靴はいてるから、少し高くなってるだけでしょ~?』

 

 

 

ヒナタはアカリのヒールが高いビビッド柄のミュールを指差し、可笑しくて

仕方ない感じで身体をよじらせ頬を緩めて応戦する。

 

 

 

まるでそれは幼い子供のケンカだった。


アカリが顔をしかめムキになって言い負かそうとすると、ヒナタは笑いながら

それをかわす。気が付くと二人はバイト先の駐車場で延々と喧々諤々やり合っ

ていた。他のバイト仲間がそんな二人を遠巻きに呆れ顔で眺めていたことすら

気付かぬまま。

 

 

興奮して声を張り続けていたアカリがさすがに疲れてバテ始め、どんなに食っ

て掛かっても暖簾に腕押し状態のヒナタを恨めしそうにギロリと睨む。


そんな様子すらヒナタには面白くて仕方がなかった。

圧倒的な勝利を手にしたいのにそう出来なくてキリキリと歯ぎしりする横顔。

 

 

すると、散々言い合いをした後で、ヒナタはニコニコと心から愉しそうに笑い

ながら言った。

 

 

 

 

 

   『僕たち、きっといいコンビになりますね!』

 

 

 

 

全く以って想定外のその言葉に、驚き目を見張るアカリ。


どこか気まずそうに弱々しく目を逸らすと、『はぁ? 意味わかんない。』 

そう低く言い捨てて踵を返し足早にひとり家路へと歩き出した。

 

 

商店街の中を歩きながら、アカリは先程のヒナタの脳天気で意味不明な言葉を

思い返していた。

 

 

 

 

   ( ”僕たち、きっといいコンビになりますね! ”)

 

 

 

 

胸がムカムカして仕方がない。何を言っても何処吹く風と上機嫌な感じで笑っ

て返してくるヒナタ。あの愛想のよい屈託ない笑い顔すら頭にくる。

 

 

 

その時。

イライラしながらも何故かアカリは立ち止まって来た道を振り返った。

 

 

 

すると、通りの向こうに、ヒナタが手を振りながらまだその場でアカリを見送

っていた。自分に気が付いてくれた事に、あの笑顔を更に綻ばせてピョコピョ

コと飛び跳ね大きくアピールをして。

 

  

 

 (なんっなの? ・・・意味わかんない・・・。)

 

  

 

尚の事不機嫌になり、思い切り冷たく顔を背け無視をして不機嫌そうに再び前

を向き大股でアカリは家路へと急いだ。

 

  

  

『おぅ! バイト初日はどうだった?』 リュータがビール片手にソファーに

身体を沈めたまま、帰宅したアカリに訊ねる。


しかしアカリは一瞬リュータを鋭く睨み舌打ちを打つと、何も言わずに機嫌悪

そうに自室へ入って行った。

 

 

『なんだ??』 訳がわからないリュータが小首を傾げてアカリの部屋のドア

を不思議そうに眺めていた。

  

  

自室のベッドにバフっと勢いよく腰掛けると、アカリは尚もイライラしていた。

 

 

 



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