■第166話 コースケとキタジマ
コースケとリュータが硬い表情で立ち竦む公園に、ナチとアカリが二人を
探しやって来た。
『なぁ~にやってんの~?』 からかう口調で声を掛けてみたが、引き攣
ったその顔を目にした瞬間、なんとなくその場の雰囲気を察しそれ以降は
何もしゃべらず四人はただその重い空気の中そこにいた。
そこへ、遠く、自転車の軋む音と笑い声が微かに流れ聞こえた。
『リコ・・・?』 一番最初にそれに気付いたのはナチだった。
少し覚束ない感じでパタパタと通りへ駆け出し、目を凝らすナチ。
すると、通りの向こうに自転車を押す痩せた背の高い男性と、その隣を歩
きながら楽しそうに笑うリコの姿が映った。
咄嗟に、弾かれたようにナチはリコの元へ駆け寄る。
そして、リコ達の目の前で立ち止まると、隣に立つ男性を目を見開きまじ
まじと見つめた。
『ナチ!!』
リコが驚きの声を上げ、ナチの少し強張り固まる表情に慌ててキタジマを
紹介する。同じようにキタジマへナチの紹介もすると、ゆっくりと公園か
らコースケがこちらへ向かって来た。
久しぶりに見るコースケの姿。
なんだか何年も会っていなかったかのように感じる、その正しく背筋が伸
びた佇まい。まさかこんな場面で出くわすなんて思ってもみなかった。
『コーチャン先生・・・ 久しぶり。』
リコの少し緊張し上ずった声に、コースケは少しだけ目線を向け弱々しく
微笑んですぐさまキタジマへと目を向けた。
そして、ゆっくりとゆっくりとキタジマの方へ一歩前に出た。
『ナナミ ケイタの弟、コースケです。
・・・マリから
・・・話は、聞いてます・・・。』
この言葉に、リコが目を見張り固まった。
頭の中で何度も何度もその意味を考えあぐねる。
(ぇ・・・? どうゆう意味・・・??)
リコはキタジマとマリ・ケイタが知り合いだという事など、今の今まで全
く知らなかったのだから。
まだ信じきれない表情で狼狽えながら、リコは隣に立ち竦むキタジマの腕
にしがみ付くようににじり寄った。
『ぇ・・・
キタジマさん、マリさん達のこと知ってるんですか・・・?』
リコは何がなんだか分からずにいた。
事態が把握出来なくてせわしなく瞬きを繰り返し、コースケとキタジマへ
交互に不安気な視線を向け続ける。
キタジマは、自分を鋭く睨むコースケの目を見て状況を呑み込んだ。
その真っ直ぐな嘘のない瞳の奥には、リコへの想いがありありと見て取れ
る。そして、その純粋な瞳は知っているのだろう。マリへした亡き妻の話、
リコにその亡き面影を重ねてしまっている事を・・・
キタジマは猫背を更に丸めてコースケから目を逸らし、何も言えずに所在
無げに口をつぐんで俯いた。キタジマ本人だって、まさかリコがマリ達と
関係があるなんて夢にも思わなかったのだから。倒れないように自転車の
ハンドルを押さえるその大きいはずの手が、ガクガクと小刻みに震えはじ
めていた。
(頼む・・・
ここでは言わないでくれ・・・
タカナシの前でだけは、頼むから・・・。)
リコは急に青ざめた顔で黙りこくったキタジマに心配を隠せないでいる。
『キタジマさん・・・?』 リコが眉根をひそめ覗き込むも、キタジマは
目を逸らし返事をしない。リコの問い掛けに反応も示さず、青ざめた顔と
は対照的に耳だけはペンキを被ったように真っ赤に染まってゆく。
すると、その煮え切らない態度を目に、コースケが尚も挑発的にキタジマ
に詰め寄る。
『キタジマさん・・・
・・・あんまり卑怯なマネしないで下さい。』
その低い地響きのような一言にも、何も言い返せないキタジマ。
大きいはずの背中がみるみる小さく萎んで、今に消えてなくなりそうに心許
ないそれへと変わる。
そこへ、リコが一歩前に出ると二人の間に立ってコースケに言い返した。
『コーチャン先生・・・
なんの話してるの・・・?
・・・卑怯なマネって、何・・・?』
リコの目に初めて、コースケへの強い怒りが滲んだ。
大切な人を訳の分からない理由で追い込むコースケを、初めて ”憎い ”と
感じた瞬間だった。
コースケは自分が知らないキタジマについての ”何か ”を知っている。
しかしこのバカが付くほど不器用なキタジマが ”卑怯 ”な事など出来る訳
がないと、リコはコースケがなにか勘違いをしているはずだと決めてかかる。
そこへ慌ててリュータが出て来て三人の間に割って入り、必死にコースケを
なだめた。肩に手を置き軽くポンポンと叩いて、リュータは努めて明るく笑
って見せる。
『まぁ、今日はもういいだろ。帰るぞ!』 そう言ってコースケの腕を掴む。
しかし、
『俺は、許さない。』
コースケの呻くような低い声がキタジマの胸に重く重く圧し掛かった。




