↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
161/227

■第161話 約束の駅


 

 

駅のホームに、速度を落としながらゆっくりと列車が入ってくる。


目の前を過ぎ流れゆく列車の窓を、リコは目を凝らして見つめた。

そこにあるはずのキタジマの姿を探して・・・

 

 

耳障りな軋んだ音を響かせ、完全に停車した列車。


車中の人々が、荷物を持って我先にとせっかちに出口へ向かう様子が映る。

リコは窓を一つずつ覗きながらパタパタと小走りで進むと、ひとつの窓に探し

ていた横顔があった。

それは全く急ぎ焦る様子もなく、出口への行列を涼しい顔でやり過ごしている。

 

 

リコが嬉しそうに微笑みながらその窓の下でピョコピョコ飛び跳ね、小さく手

を振る。


すると、やっとキタジマが顔を窓外へと向け目が合うも、ニコリと微笑む訳で

もなく呆気なく目を逸らされた。しかし、軽く片手を上げてリコへ小さな合図

を送った。その手はいつも通りこびり付いた絵具だらけの、それで。


その様子にリコは笑いを堪えた。

相変わらずぶっきら棒で愛想が無くて、超ド級の照れ屋な姿に。

 

 

一番最後に列車を降りて来たキタジマ。気怠そうに痩せた猫背で、緩んでしま

いそうな頬を無理やりいなし、不自然に強張った表情でリコとはやはり目を合

わせない。


リコはどうしてもニヤニヤしてしまう表情筋を隠す為、慌てて周りを見渡すと

同じように帰りを待ちわびた恋人達がハグしたり手を繋いだりしているのが目

に入った。

 

 

互いにそれを目に、一瞬、二人は見つめ合い気まずそうに目を逸らした。

 

 

 

  (私があんな風に抱きついたら怒るのかな・・・?)

 

 

 

リコが俯いてこっそり笑った。

 

 

 

キタジマは肩からカバンをさげ、重そうに段ボールを両手に抱えていた。

こんな段ボールに詰める程に荷物を持って帰郷したのかと、リコはじっとそれ

を見つめる。

 

 

そして我慢出来なくなり、『なんですか? この段ボール。』 

リコは不思議そうに小首を傾げて、指先でツンツンと突いた。

 

 

すると、

 

 

 

 『俺んじゃねぇ。


  バアサンから、タカナシにだ・・・。』

 

 

 

それは、祖母キヨがリコの為に畑の野菜を段ボールに詰めて持たせてくれたも

のだった。

 

 

『こんなに要らないって言ったんだけど・・・。』 キタジマは眉根をひそめ

ブツブツと文句を呟く。そしてチラリとリコを盗み見て、逆に迷惑になるので

はないかと不安そうに段ボールを睨む。

 

 

しかし、そんな心配は杞憂だとすぐさま気持ちが晴れるくらい、リコは思い切

り嬉しそうに段ボールに飛びついた。その顔はキラキラと輝き、もう少しで泣

いてしまいそうに瞳を潤ませて。

 

 

 

 『えっ?! おばあちゃんから・・・?

 

 

  嬉しいぃぃいいいい!!!


  ・・・これ、私が持ちますっ!!』

 

 

 

しかし、キタジマがそれを制す。 『バカっ! すっげぇ重いんだって。』

 

 

そして、『じゃ、こっち頼む。』と、少し屈んで肩のカバンをリコに委ねた。


大きな肩からストンとリコの手の中に落ちたショルダーテープに、キタジマ

のプライベートにほんの少し関われるだけでリコには充分嬉しかった。

 

  

 

 

 

 

時刻は昼を回っていた。

駅を出ると真上に照り付ける太陽の光に、半袖の腕がじんわりと熱を持つ。

 

 

『メシは? どっか行っか?』 キタジマが抱える段ボールに、タバコも吸え

ない状態で口寂しそうに唇を蠢かす。


リコは外で二人で食事に行けるのは嬉しかったが、1秒でも早く段ボールを置

いてキタジマを少し休ませてあげたかった。

 

 

 

 『大学って開いてますよね?


  ここから近いし、何か買って大学でゆっくり食べましょ?』

 

 

 

リコの言葉に、キタジマは『ん。』といつものぶっきら棒な返事を返した。

 

 

大学までの並木道。

久しぶりに二人で並んで歩く、この並木道。


照り付ける夏の日差しに青々とした葉を輝かせるイチョウが生い茂るそこ。

真夏の陽は暑かったけれど、田舎のジリジリしたものとは全く違いムシムシと

した嫌な湿気が体中にまとわりつく。

 

 

『おばあちゃん寂しがったでしょ?』 また一人ぼっちになった祖母キヨを思い

リコの胸がチクリと切なく痛む。段ボールに野菜を詰めるあの小さな背中を想像

すると、再び今すぐにでも飛んで行きたくなる。

 

 

すると、『また行けばいいんだ。』


そうボソっと呟いてキタジマが少し ”間 ”をおき、小さく二の句を継いだ。

 

 

 

 『また、行くか・・・?』

 

 

 

その言葉にリコがパっと頬を染め、笑顔で大きく大きく頷いた。

 

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。