■第160話 引越と帰省
『ここでいいな?! 文句はないな?!』
リュータが右側のナチと、左側のアカリに交互に目線を向け最終確認をした。
リュータ兄妹の中で突如持ちあがった引越計画。
夏の初めから探し続けていたのだが、やっと納得のいく物件を見付けたのだ。
商店街にも、コースケの実家にも程近いアパート。
2LDKという広さは、リュータ・アカリ各々のプライベートを守るには完
璧だ。居間も今までの8帖から10帖になる。キッチンも別。浴室に繋がっ
た洗面所があれば、もう風呂上りにコソコソ隠れて着替えをしなくて済む。
家賃は今よりアップするけれど、アカリがバイトを決めた事だし何とかなる。
『完璧じゃ~ぁん!!』 リュータ・ナチ・アカリが同時に三人でハイタッ
チして満足気に笑った。
引越の日は夏らしい快晴の空がジリジリと日差しを照り付け、業者を頼らな
い自力での引越をするリュータ達に意地悪をした。
手伝いに来ていたコースケも暑さで一気に吹き出す汗に、顔をしかめて太陽
を睨んだ。リュータ・コースケ・ナチ・アカリの四人で汗だくになりながら
荷物を運び、片付けをした。
大体の荷物が新居に収まったあたりでやっと休憩をとる四人。
汗をかきすぎて水分を摂っても摂ってもすぐに吹き出してしまう気がする。
皆疲れた顔をしながらも、部屋に収まった大き目の家具を見渡しどこか満足
気だった。あと一息頑張って荷物の運び込みが終わったら、コンビニに買物
に行って今夜は盛大に ”引越パーティー ”だ。
ナチがペタンと床に座り、大きく息をついて額の汗をぬぐう。
新しいフローリングの床の冷たさが、熱い身体に直接伝わって気持ちがいい。
すると、それを横目で見てプっと吹き出したリュータ。
ふと自分の手元に視線を向け、悪戯っ子のように満面の笑みでナチに近付く。
『疲れたろ? 大丈夫かぁ??』
そう言いながらナチの頬をグニグニと撫で回す。
もの凄い厭らしい笑顔で軍手のままの手で撫でられ、ナチの頬が右に左に歪む。
あまりの度が過ぎる愛情表現に、ナチはバタバタと足掻き困惑して言った。
『も、もういいからリュータさん・・・。』
その様子を見ていたアカリが、丁度リュータの背中で見えていなかったナチを
見た途端、声を上げて大笑いした。コースケも何事かと二人の元へ近寄りそし
て爆笑する。
それにつられ我慢出来なくなって、リュータも再び愉しそうにケタケタ笑った。
『え? なに?! ・・・なに笑ってんの?!』
事態が把握出来ずキョロキョロ見渡すナチの額は、軍手の汚れた手で汗をぬぐ
ったため丁度まゆ毛とまゆ毛の間に黒色が付き、繋がり眉。
そしてわざとリュータが軍手で撫で回した頬には、悪魔のようなシャドーが。
『なによぉー!
ちょっと、なんなの?! なに笑ってんのぉぉおおお??』
それでなくとも肉体労働で疲れているのに、笑い過ぎて皆もうヘトヘトだった。
リコはナチから、今日がリュータ達の引越の日だと先日会った時に聞いていた。
勿論手伝いに行こうと思っていたし、ナチにもそう約束していた。
しかし、ナチに電話して謝っていた。 『その日は行けそうにない。』と・・・
駅のホームで落ち着かない様子で佇むリコ。
予定の到着時刻にはまだ30分も早い。何度線路の向こうを見つめたって列車が
予定より早く着くはずなど無いのは分かっているのだけれど。
それでも、じっと座ってる事すら出来ずその場をウロウロ歩き回る。
カバンから手鏡を取り出して前髪をチェックする。鏡に映る高揚した染まる頬が
中々赤みを引かない。気にすれば気にする程それは赤くなるようで。
そっとカバンの中からケータイを取り出した。
そして、もう何十回も確認したその着信メールを選択して開く。
◆そっちに12:30着の電車に乗る。
キタジマが帰ってくる日だった・・・




