■第159話 同居計画?!
リュータとナチとアカリは、8帖の居間のソファーに三人ギューギュー詰めで
座っていた。
リュータは真剣にマンガを読み耽り、ナチはテレビドラマに釘付け、アカリは
膝の上の愛猫あおいを撫でながらうっとりと自意識過剰気味にネイルの指先を
見つめ、その手入れをしている。
暫し三者無言の時間が流れていた。
マンガのページをめくる音とテレビの音声と、たまにあおいが上げる鳴き声と。
すると、ずっと思っていた事をリュータが遂に発した。
『あのさ・・・
・・・狭くね?
何をどう考えても狭くね??』
そのボソっとこぼした一言に、ナチとアカリが同時に返す。
『下りればいいじゃん。』
『下りればいいじゃん。』
その二人の白けた淡白な反応に、苛立って勢いよく立ち上がったリュータ。
『ソファーが狭いって言ってんじゃねぇーんだよっ!
・・・いや、狭いけど。
それだけじゃなくて・・・
この1Lの一人暮らし用の部屋に
兄妹で暮らすだけで超ぉ狭いっつーのに、
毎日毎日ナチまで居座って・・・
引っ越すっ!
決めた、もぉ決めた。 引っ越すぞっ!!!』
ひとり、真っ赤な顔をしてやたらと熱くなっているリュータを、ナチとアカリは
半ば呆れてポカンと口を開けて見ていた。
愛猫あおいだけがまるでリュータを心配するかのように、仁王立ちになって猛る
その足元に擦り寄って『にゃ~』と鳴いた。
その日から、部屋探しが始まった。
リュータはコンビニから無料配布の賃貸情報誌を集めてひたすらページをめくり、
アカリはパソコンに齧り付いてネットで情報収集をした。
その隣でナチは一人、首を突っ込んではワクワクした様子を隠しもしない。
リュータとアカリの顔をせわしなく交互に眺めると、軽い癖っ毛の髪の毛が左右
にふわふわと揺れる。
『あっ! この6帖の部屋は私のにして!!』
リュータが開く情報誌の一部屋に、興奮気味で食いついたナチ。
リビングのラグに腹這いになって足をバタバタさせ、右手に握るカラーマーカー
でその部屋をぐるぐるとマルで囲んだ。
そんなご機嫌顔のナチを、リュータは眉ひとつ動かさず真顔でまじまじと見る。
『お前は自分ん家があるだろ。』
『なんでぇぇ???
三人同居計画じゃないわけ?!
・・・私だけ仲間はずれなの?!』
文句を言いはじめたナチは、止まらない。
不満気に口を尖らせて、水泳のバタ足のようにジタバタと足掻く。
フローリングの床がナチの足先でノックされタンタンタンと音が続く。
すると、リュータが眉尻を下げ困った顔をして聞き訳のないナチをなだめた。
『いいよーぉ?
俺はいいよーぉ?
・・・でも。 お前ん家の親が、んな事許してくれんのかぁーぁ?』
そう言われ、ナチがあからさまにふくれっ面をして黙りこくった。
フローリングに腹這いになっていた体勢から起き上がってぺたんこ座りをし、
子供のように頬を膨らませて鋭くリュータを睨み付ける。
その遣り取りを聞いていたパソコン画面に向かうアカリが、キャスター付きの
イスをクルクルと回転させながら、ニヤリと片頬を上げて言う。
『私と二人で住むって事にすればいいんじゃーん?』
しかし、ナチは更に眉間に深くシワを刻んだ。
ナチは一人っ子で親は結構厳しいほうだった。いわゆる ”箱入り娘 ”という
やつで大切に大切に真綿に包むよう過保護に育てられていたのだ。
例え本当に同居相手がアカリだったとしても、許される見込みなど0%だった。
大学を卒業して自分の給料で生活できるようになったとしても、結婚するまで
家を出る事など許されないだろう。
目を逸らしまくっていた現実を改めて突き付けられ、ガックリうな垂れ小さい
体が増々小さくしぼんで見える、ナチ。首が肩の間にめり込んだのではないか
と思う程にすくめて。
諦めきれないその指先は、まだ情報誌にマーカーでピンク色のマルをぐるぐる
と書き続けている。
すると、リュータがなだめるようにナチの頭をポンポンと軽く叩きながらそっ
と耳打ちした。
『広い部屋になったら、もっと遊びに来やすくなんだろ?
ほら・・・ 俺の個室もある家ならさぁ・・・。』
『うわっ! エロ~っい!!』 聞き耳を立てるアカリがニヤニヤほくそ笑む。
ナチが不貞腐れながら、耳を真っ赤にして俯いた。




