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■第156話 ふたり


 

 

ナチは自分の勘違いに気が付いたのだった。

 

 

なんだかんだ言ってもリコは受身で、結局はコースケ側から何かしらのアクシ

ョンがあるのをただ待っているのだと思っていた。ただ可愛く微笑んでいれば、

周りが勝手に動いてくれるとでも思っているのだと・・・

 

 

内心ナチはそんなリコに苛立っていた。

自分の足で前に進もうともしないで、ぶつかってもみないで、人任せにただ待

つだけのリコに。

 

 

しかし、それはナチの間違いだった。

 

 

リコは、ちゃんと自分の正直な気持ちを二度も伝え、答えも貰っていたという。


ナチはなんでもリコに隠さず話して来たが、リコはきっと仲間のバランスが崩

れないように気を使って黙っていたのだ。

自分一人が平気なふりをすればいい、と。

 

 

ナチは、リコが一人ぼっちでどんなに苦しい思いをしていたかを思い胸が痛く

なった。ナチがつらい時はいつもリコが傍にいて励ましてくれたというのに。

 

 

リコにきちんと謝ろうと決心した瞬間だった。

ひとりで我慢させてごめんね、と・・・

 

 

そして、その足は自然にリコの家へ向かっていた。


1秒でも早くリコに謝りたくて、リコの顔が見たくて、最初普通の歩幅で歩い

ていたスニーカーの足は、次第にアスファルトを蹴り上げ駆け出していた。


すると、ゼェゼェと息を切らしてリコの自宅のチャイムを押したナチに、母ハ

ルコから想像もしていなかった言葉が返って来た。

  

 

 

 『リコは今、大学の合宿で里見村に行ってるのよ。』


  

 

その瞬間、直感で分かった。

ナチの頬がほんの少し引き攣り、慌てて俯いてハルコから顔を逸らす。

 

 

 

  (キタジマって人と一緒なんだ・・・。)

 

 

 

きっと ”合宿 ”なんていうのは嘘なはず。本来なら嘘をつけるようなリコでは

ないのに。それでも大好きな母親に嘘をついてまで傍にいたい相手が、キタジマ

という人間なのだ。

 

 

それ以来、リコに連絡しようかナチはずっと迷っていた。


しかし、メールの中の言葉の温度が伝わらない簡素な文字を送るよりも、ちゃん

と会って顔を見て自分の気持ちを伝えたかった。

だから、連絡はしなかったのだ。

 

 

そんな中、リコから届いたメール。


画面の中の ”リコ ”という送信者名を目にしナチは一気に涙が込み上げ、ケー

タイを掴む手が震える。

 

 

あの日、リコに酷いことを言ってしまった。


あんなケンカは長い付き合いの中で初めてで、あんな強い口調も、あんな睨む様

な目も、あんな哀しそうな背中も、全部全部ナチの胸に後悔という棘となって突

き刺さっていた。

 

 

ナチはリコに会ったらたくさんたくさんキタジマの話を聞いてあげようと思って

いた。以前リコがキタジマの事を言いかけて、ナチが思いっきり怪訝な顔でそれ

を遮ってしまった事を最も気にしていたのだ。

 

  

 

  リコが今、幸せなら・・・


  リコがたくさん笑っているなら・・・

 

  

 

ナチはそれだけを願っていた。

リコと笑い合えることだけを願っていた。

 

 

そして、今。ナチは願った通りに微笑み合えたのだ。

 

  

 

 『ねぇねぇ、里見はどうだったのよ~?』

 

 

 

ナチが話を聞きだそうと、いやらしくニヤニヤ頬を歪めながら身を乗り出す。


ファミレスの4人掛け席で片方のソファーに並んで、幼い子供のようにピッタリ

くっ付いて座り、頬をほんのり染めて愉しそうにクスクスと笑い合って。

 

 

 

 『それがねっ!


  里見はすっっごいイイ所で、キレイでのんびりしてて・・・


  で、おばあちゃんがすっごい可愛くて、野菜が美味しくて、


  小川が家の裏手にあるんだけど、キタジマさんが子供の頃は・・・』

  

  

 

二人の幸せそうな笑い声は夜更けまで続いた。

 

 

 


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