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■第155話 ナチへのメール


 

 

  ◆To:ナチ


  ◆Title:久しぶり


  ◆元気ですか?


   どうしても聞いてほしい話があるの。


   嫌かもしれないけど、会えない?

              

 

  

リコはキタジマと別れた後、列車の中でメールを打っていた。


今回キタジマと一緒に過ごした数日間で、気が付いた ”本当の気持ち ”

誰を想っているのか、誰の傍にいたいのか、ハッキリ思い知らされたのだ。

 

 

ナチには自分の気持ちをちゃんと伝えたかった。

リコにとって一番の友達であるナチには、包み隠さず全てを。


それがもし、ナチに受け入れられなくても。例え、嫌われたとしても・・・

 

 

何度も何度も文章をつくり直し、打っては消してを繰り返した。


言いたい事は至極簡単なはずなのに、やはり怖くて中々文章を完成できずにい

たが時間を掛けやっと送信ボタンに触れたリコ。

メールが送信されたメロディが小さく響くと、胸に渦巻くどうしようもない不

安に心臓がバクバクと音を立ててうるさいくらいで。


しかし強い意志の宿る目をしたリコは、何度も大きく深呼吸をし窓の外の景色

をじっと見つめる。例えナチに分かってもらえなかったとしても、この気持ち

には嘘を付かないと心に決めていた。結局、その後は一睡も出来ずにいた。

 

 

3時間弱、列車に揺られ地元へ降り立った頃には、夕焼けが空を染めていた。


途中、ケータイは圏外を示すマークが表示され、車中では確認できなかったメ

ールを駅のホームで確認する。

すると真っ先に目に入った ”新着メール1件 ”の表示にリコは息を呑む。


早鐘のような鼓動が全身に響き、少し震える指先でケータイ画面に触れる。

 

 

 

 ピ・・・

  

 

 

  ◆分かった。


   連絡して。待ってるから。

        

   

   

ナチとゆっくり顔を合わせるのはいつぶりだろう・・・


こんなに距離をおいた事など、今までの長い付き合いの中で一度もなかった。

いつもリコの隣にはナチがいて、笑ってくれていた。


怒って、すねて、泣いて。言いたいことは言い合って、それでも分かり合って

いつも二人は飽きもせず一緒に過ごしていたのに。

 

 

これから先の二人は、今までの二人とどう変わってしまうのか、変わらずにい

られるのか、リコは潤んでしまいそうな心許ない瞳を一度ぎゅっとつぶると、

ひとつ深く息をつき揺れる心をいなした。

 

 

 

 

 

いつものファミレスのいつもの席も、とても懐かしくここに通っていたのも遠

い昔の事のように感じた。先に待合せ場所に着いたリコが一人、ナチを待つ。


窓の外を見渡したり、出入り口をじっと見つめたり、手元に目を落としたり。

ソワソワと緊張して全く落ち着かず、お冷だけが急ピッチで減ってゆく。

 

 

そこへ、少し遅れてナチがゆっくり店内に入ってきた。


店の奥のいつもの指定席にリコを見つけると、少し手を上げて小さく微笑んだ

ナチ。そのナチの笑った顔さえとても久しぶりな気がして、それだけでリコは

一気に鼻の奥がツンと痛んで苦しい。

 

  

 

 『・・・元気だった?』

 

 

 

先に声を掛けたのはナチだった。


久々に聞くナチの高くて幼いこどものような声。毎日毎日聞いていた、聞こえ

て当たり前だったナチの声。

 

 

リコはもう限界で、目に涙をとどめておく事も出来ず、『ナチ』とただ名前を

呼ぶことさえ喉の奥が締め付けられるように苦しくて、唇を噛み締め俯いてた

だただ首を小さく縦に振る事しか出来なかった。


リコの肩が細かく震えている。膝の上でぎゅっと握り締めた拳に、透明な雫が

ぽつぽつと跡を残す。

 

 

ナチはそんなリコを哀しげにしかし優しく見つめると、向かい側の席から隣に

移動して、二人並んで座る。

 

 

そして、リコの涙で濡れた手をとって自分の両手で包むと、ナチがあのいつも

の太陽のような明るい顔で微笑んだ。


思い切り微笑んで、ナチも我慢しきれず咄嗟に俯きぎゅっと唇を噛み締める。

リコの手を包むそれに、ナチの雫も次から次へとこぼれ落ちた。

  

 

 

 『わ、私ね・・・ ハッキリ、分かったの・・・。』 

 

 

 

リコが声をしぼり出すように震えながら呟いた。

 

 

 

 『私ね・・・


  キタジマさんの事が、好きなの・・・

 

 

  ・・・もし、私のせいで


  みんなを、気まずくさせ・・・』

 

 

 

リコの決死の告白を途中で遮り、ナチがギュっと抱きついた。

リコの細い身体をきつく抱きしめながら、ナチが涙声で言う。

 

 

 

 『リコが幸せなら、それでいいよ・・・


  それがいいの・・・

 

 

  リコには、もう、


  我慢したり、頑張りすぎたり、泣いたりしてほしくない・・・

 

 

  ・・・リコは、今、幸せなんだよね・・・?』

 

 

 

そのナチの言葉に、涙でクシャクシャに顔を歪めるリコがしゃくり上げながら

大きくコクリと頷いた。

 

 

リコのその顔を見つめ、ナチも我慢しきれなくなり両手で顔を覆って大粒の涙

を流した。

 

 

 



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