■第15話 5人
コースケに案内され、賑やかな大学の中をゆっくり歩くリコ。
お祭りで誰もかれも皆一様に笑顔だ。
うるさいくらいのBGMも気にならない程のそんな無敵の笑顔のパワーに
圧され、なんだかリコまで嬉しくなり自然に頬は緩んだ。
それに、すぐ斜め前にはコースケの背中がある。
勇気を出して手を伸ばせたなら、それに触れることだって可能なその距離。
リコより頭ひとつ背が高い、痩せたコースケの姿。
黒い髪の毛はきっとなにも整髪料は付けていないのだろう。少しだけ伸びた
うなじがクセ毛なのか微かに流れを作っている。
大学2年という事は、リコより3歳年上という事だ。
たった3年という年月が、月と地球ほどに途方もなく遠く感じた。
すると、コースケが立ち止まってクルリと振り返った。
眩しそうに目を細め、またしても眉尻が下がってどこか情けない顔で。
『なんか食べたいモンな~い?
今日はコーチャン先生が、どーんとおごっちゃうよっ!!』
いたずらな子供のように口角を最大限上げ、ニカっと笑う。
『かき氷は? ぁ、綿アメもあるよ?』 矢継ぎ早なそれが、まるで園児
扱いされているみたいでリコにはそれが恥ずかしい反面嬉しくて胸の奥が
くすぐったい。
(コーチャン先生が・・・
・・・好き、 かも・・・。)
はじめてこの言葉が、リコの心の中に広がった。
今まではこの的確な2文字を敢えて考えずにいたけれど、それはまるで
水面に広がる波紋のように、静かに、ゆっくり、ゆっくりと。
リコの心に小さな小さな波を立ててゆく。
その波の揺らぎに照れくさそうに目を伏せると、心は小さな火が灯った様
にぽっと温かくなり頬はさくら色に染まった。
二人は大学の中庭のベンチに腰掛け、一休みしていた。
瑞々しい青葉を広げる桜の樹が心地よい日陰を作り、爽やかな涼風が微妙な
距離を開けて並んで座るリコのほんのり染まった頬を撫でてゆく。
リコはトートバッグを膝の上に乗せると、中から絵本を取り出しコースケへ
渡した。
コースケも子供の頃からこの絵本を知っていたという。
昔から保育園にあった絵本なのだが、長い間たくさんの子供たちに愛されて
ボロボロになり、数年前に処分したがやはりまた読みたくなったのだと。
『子供たちに読ませてあげたいなぁ~と思ってさ。
ずっと探してたんだよね~。』
互いに、絵本のこのシーンが好きとか、あのシーンがどうだとか時間を忘れ
て話をしていた。それでも、絵本を指すコースケの人差し指のキレイに整え
られた爪にいちいちドキドキし、身を乗り出したその大きな肩先がわずかに
触れた感触に心臓はきゅっと跳ね上がる。
気が付けばリコは呼吸を止め、ガチガチに肩に力を入れてコースケの隣に
座っていた。
ふと、焼きそば屋に残してきたナチの事を思い出したリコ。もう時計の針は
ゆうに2時間は進んでいた。
二人で焼きそば屋へ戻ると、ナチがソースで汚れたエプロンをして赤い顔で
必死に焼きそばを焼いている。リュータに焼きヘラの返し方を厳しく指導さ
れリカコに意味も無く苛められながら。
『な、なんか。 あの3人・・・ 意気投合したぽくない?』
3人の様子を眺め、コースケとリコが顔を見合わせて肩をすくめてクククと
笑った。
その後は、みんなで駅前のファミレスに移動し大いにしゃべり笑った。
殆どが初対面だなんて思えないくらい、5人は急速に仲良くなってゆく。
6人掛けテーブルの一方に、コースケとリュータ。他方にリカコ・リコ・
ナチが座り、注文した食事の皿など当に空になっているのにいつまでも
ドリンクバーをお代わりし続け、周りの客が何周入れ替わったか分からな
い程に愉しい時間を過ごした。
みんなで腹を抱えて笑い合う合間合間にも、リコは目の端でチラチラと
コースケを盗み見ていた。
そんなリコを、ナチはなんとも言えないモヤモヤ感を抱きながらこっそり
見ていた。
そんなリコとナチを、リュータとリカコが溜息まじりに遠く眺めていた。
ただ一人、コースケだけが脳天気に困ったような顔で笑っていた。




