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148/227

■第148話 田舎道


 

 

二人はただ黙って、日差しが降り注ぐ田舎道を歩き続けた。

 

 

リコが歩く数歩前を、キタジマが歩いていた。


咥えタバコで、片手に握ったリコの荷物は肩に引っ掛けている。

相変わらずの痩せた猫背、気怠げな踵を引き摺る歩き方。やはり大きな手

にはカラフルな絵具がこびり付いているのが見える。

 

 

リコはその背中を、泣きそうになりながら見つめて歩いた。


逢いたくて逢いたくて仕方なかったその背中は、相変わらず不器用でぶっ

きら棒で、優しい言葉ひとつも掛けてはくれない。

それがキタジマらしくて、愛しくて、リコは泣きそうになるのだった。

 

 

すると、無言でひたすら真っ直ぐ歩いているキタジマが、たまに振り返り

斜め後方を見上げる。それは時間をおいて何度も何度も繰り返されていた。


空を見ているのかと思ったリコ。リコも、そこには何があるのか振り返っ

て見上げてみた瞬間。 

 

 

 

 『キャっ!!』

 

 

 

リコが余所見したその時、道端に小さなアマガエルが急に飛び出してきて

踏み付けそうになった。


驚きそれを避けようとバランスを崩し、草むらに突っ込みそうになったリ

コの腕をすかさずキタジマが掴んで引っ張り上げる。

 

 

 

それは、あまりに完璧なタイミングで・・・

  

 

 

 

  (空を見上げてたんじゃない・・・


   私を気にかけて、振り返ってくれてたんだ・・・。)

  

 

 

一緒に並んで歩くでもなく『気をつけろ』と声を掛けるでもなく、たまに

斜め後方をチラリと盗み見て、リコを気遣っていたキタジマ。


咄嗟に掴んだリコの腕からアッサリと手を離し、まるで何もしていない様

な涼しい顔をしているが、口に咥えたタバコの煙がやけにスピードアップ

して晴天の青にくゆって昇る。

 

 

 

 『不器用にも程があるでしょ・・・。』

 

 

 

キタジマには聴こえぬよう小さく囁き、泣いてしまいそうな顔で微笑んだ。


その大きな手にはじめて触れられたリコのノースリーブの二の腕が、真夏

の日差しに照らされて恥ずかしそうに赤く染まっていた。

  

  

 

 

 

 『虫とか、爬虫類とか。 苦手か・・・?』

 

 

リコを振り返りもせず、真っ直ぐ進みながらまるで独り言のようにキタ

ジマがポツリと訊く。


リコもその歯がゆい距離を保ったまま『苦手ですよっ!』と返事をした。

 

 

すると、『ウジャウジャいるからなっ!』 


少し振り返ってニヤっと笑うキタジマ。まるで子供のように片頬を歪め

完全にリコをからかって愉しんでいるその表情。

 

 

やっと見せてくれたキタジマの笑顔が嬉しくて、リコはちょっと早足で

キタジマに追いつき、下から顔を覗き込んでイタズラに笑いながら言う。

 

 

 

 『その時は、カッコよく助けてくれるんですよねっ?!』

 

 

 

悔しいけれど一枚上手な、太陽のように眩しく笑うリコを横目でチラっ

と一瞬見てすぐ目を逸らし、少しモゴモゴと何か言いかけてキタジマは

タバコの煙をふ~っと大仰に吐いた。


返答なしのキタジマが可笑しくて、リコは声に出してケラケラと笑った。

 

  

 

どこまでも続くのではないかと思うような、田舎道。

 

 

突き抜けるような高い青空には、真っ白なふわふわの雲。

日差しは増々強くなっていき、リコのノースリーブの肩を赤く染めた。

道端には、名もないようなカラフルな小さい花々。

砂利道の小石に、シャリ シャリと二人分の足音が小気味よく続く。

夏の虫の音は、不規則に延々響いている。

 

 

 

 『この景色、全部写し取りたいな・・・。』

 

 

 

目を細めて見渡すと、優しい気持ちに全身が満たされてゆくのを感じる。

久しぶりにリコの描きたい意欲が沸々と湧いていた。


今すぐにでもスケッチブックを取り出し、道端にしゃがみ込んで色を付

けたいくらいだった。

 

  

『もう着くぞ。』 キタジマが指をさす先に古い民家があった。

 

 

 



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