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143/227

■第143話 向き合う覚悟


 

 

 『キス・・・ したんだ。 俺・・・。』

 

 

うな垂れていたコースケが、突然呟いた。


それは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな呟きで、聞き間違いかと

リュータは顔をしかめてコースケに聞き返す。

 

 

 

 『ぁあ??』

 

 

 

『・・・キス、した・・・ リコちゃんに。』 2度目で確実に聞き取

れたリュータが、目を見張って固まった。暫く何も言えずに、口をぽか

んと開け、ただただコースケを見つめている。

 

 

 

 『ぇ・・・


  ・・・い、いつの話だよ・・・?』

 

 

 

驚きすぎて動揺を隠せないリュータ。


やっと出た言葉は詰まってぎこちなく現れ、落ち着きなく瞬きを繰り返

しゴクリと喉を鳴らして息を呑む。

長い付き合いのこのコースケが、そんな行動に出るなんてにわかに信じ

がたい。しかもそれは、きちんと正式に付き合っている相手でもないと

いうのに。

 

 

コースケは、リカコが帰国し園でみんなで飲んだ夜のことを話し始めた。

 

 

リュータは、あの夜の事は酔っていて100%完璧に覚えている訳では

なかった。しかしリコがあの時酔っ払って遊戯室で倒れた事はしっかり

記憶にある。

 

 

 

 『だってよぉ・・・


  あん時、リコ倒れたじゃんか・・・

 

 

  ・・・酔っ払って、遊戯室で・・・。』

 

 

 

黙って俯いているコースケ。


責められている訳でもないのに、コースケは神妙な面持ちで口を閉ざし

床にかいた胡坐の脚をぼんやりと見つめている。

 

 

 

 『・・・それで、


  お前とタケが、それを見付けて運び込んだろが?』

 

 

 

コースケはコクリと小さく頷きやっと反応を示すと、重い口を開く。

 

 

 

 『リコちゃんが倒れた時に・・・


  最初にそこにいたのは・・・ 俺、なんだ・・・。』

 

 

 

リュータが静かに相槌を打ち、二の句を待つ。

 

 

 

 『あの時は・・・


  みんな、すげぇ飲んで、酔っ払ってて・・・

 

 

  リコちゃんが、夜中に急に、フラフラしながら下に降りてって。


  ・・・心配だったから、後、着いてったんだ・・・。

 

 

 

  そ、そしたら・・・


  ・・・声、殺して・・・ 泣きはじめて・・・

 

 

  ・・・俺の、名前・・・ 泣きながら・・・。  

 

 

 

  気が付いたら、俺・・・ 駆け寄ってた・・・。』

 

 

 

リュータは黙って聞いている。


コースケが所々なんだか泣きたいのを堪えているみたいに言葉に詰まり

ながら懸命に話すそれに、リュータの心臓も同じようにきゅっと痛む。

 

 

 『この子を・・・


  ・・・この子を。


  どうしてこんな風に独りで泣かしてんだろう・・・て、思った。

 

 

  いっつも笑ってて、一生懸命で、こんないい子を。

 

 

  なんで、俺・・・ 独りでこんな風に・・・


  泣かしてんだろう、って・・・。』

 

 

 

『・・・それ。 リコは気が付いてんのか?』 暫し切なそうに目線を

落としていたリュータ。情けなく丸めた背中を少しだけ伸ばしてコース

ケを見ると、静かに口を開く。

 

 

コースケがほんの少し嘲るように頬を緩め、首を横に振った。 

『・・・知らないと思う。』

 

 

そして再び暫くの間、二人は何もしゃべらず重い空気がどんよりと留ま

った。互い、微動だにせずに考え込んで口を噤んだまま。

 

 

すると、リュータが背を仰け反り床に後ろ手を付いて天井を仰ぐ。

目を眇めて大きな大きな溜息をひとつ付くと、喉仏が微かに上下した。

 

 

 

 『いい加減、リコと向き合うべきだろ・・・

 

 

  全部、お前次第だろうが?


  お前がちゃんと気持ち伝えれば、それで万事解決だろぉ~?  

 

 

  マリさんの件は・・・


  出来る範囲で、支えたらいいだろ・・・

 

 

  お前は、自分の事を・・・


  リコとの事を、もっとちゃんと考えるべきだって・・・。』

 

 

 

ぼんやりと何処を見るでもなく見ているコースケ。

そして、心ここにあらずといった感じで、力無く呟いた。

 

 

 

 『万が一・・・


  ・・・リコちゃんが、


  キスに・・・ 気付いてたとしたら・・・。』

 

 

 『もしそうなら、


  気持ちが通じ合ってるって、リコも確信してんじゃねぇ?』

 

 

 

すると、まるで泣き出しそうな顔で、うな垂れたコースケ。


それは震えてかすれて、あまりに弱々しくこぼれ落ちた。

  

 

 

 『・・・逆かもしんねぇ。』

 

 

 


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