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140/227

■第140話 重い空気の中で


 

 

 『リコね・・・


  コースケさんにちゃんと気持ち伝えてたみたい・・・

 

 

  ・・・全然、


  私・・・ そんな事、知らなかった・・・。』

 

  

 

散々泣きはらした真っ赤な目で、しょぼくれながらナチが呟く。


ナチは今までなんでもリコに相談してきたのに、リコはそうではなかった

事をはじめて知り、これでもかという程に打ちひしがれた。リコの事だか

ら周りに気を遣わせないようにという配慮の元なのだろうけれど、ナチに

はどうしても ”水くさい ”としか思えない。リコが哀しい時は、泣きた

い時は、自分が傍にいて一緒に泣きたかったのに。

 

 

飲めないくせにチューハイを豪快に傾け一気に飲もうとし、その缶を即座

にリュータに横から奪われた。

 

 

リュータは奪ったチューハイに口を付けながら、静かに話し始めた。

 

 

 

 『俺も。 最近、聞いた・・・


  ちゃんと ”好きだ ”って、コースケに伝えたって・・・。』

  

  

 

『で? コースケさんの返事は・・・?』 アカリが訊く。


それはまるで答えが分かっていて、自分の中のそれと答え合わせしようと

するかのように。なんだか気乗りしない声色で響く。

 

  

 

 『 ”No ”だった、って・・・

  

  

  ああああああああ!!! もぉ・・・


  コースケは、頭カタ過ぎなんだよなー・・・

 

 

  マリさんの事で、誰かに嫌な思いさせるくらいなら


  誰とも付き合わないって・・・

 

 

  やっぱ、


  マリさんとタクヤを支えてく気持ちは変わらないから、って・・・。』

  

  

 

ナチが悔しそうにしかめっ面を作り、その頬にはまた涙が伝い落ちる。


コースケもリコのことを少なからず想っているのなら、せめてそれを伝え

たっていいのではないか。その一言でどれだけリコが喜ぶか、どれだけ幸

せな笑顔になるか、そんな事も分からないのかとナチの苛立ちはコースケ

へと矛先が向かう。

 

 

 

 『でも、でもねっ!!

 

 

  リコなら・・・


  リコだったら、マリさんとの事情も全部知ってるんだもん。

 

 

  コースケさんと一緒に、


  マリさん達を支えていけ・・・』

 

 

 『そりゃ、残酷だろ。』

 

 

 

ナチが必死に考え導き出した妥協案を、リュータが抑揚ないトーンで遮っ

た。ナチの願いをバッサリ切り捨てるような、それ。

 

 

どんなに事情を詳しく知っていたって、どんなにマリという人間を知って

いたって、自分の好きな人が他の人の為に一生懸命になっている姿なんて

そうそう受け入れられるものではない。


リコのように真っ直ぐで心根が優しい人間ほど、相手の気持ちを尊重して

自分の本音をきっと抑えつけるだろう。

どうしても全ては受け入れられない自分に自己嫌悪に陥り、嫉妬してしま

う自分を責めるだろう。独りぼっちで隠れて泣くのだろう。

 

 

リュータは、これ以上リコにそんな思いをさせたくなどなかったのだ。

  

  

 

 『コースケ次第なんだよ、全部・・・。』

 

  

 

三人の間に重く苦しい空気が圧し掛かりどんよりと停滞していた。

それ以降、誰も口を開くことはなかった。 

  

  

 

 

 

 

その頃リコもまた暗い表情でひとり、自室でうずくまっていた。

長い付き合いのナチとあんな酷いケンカをしたのは初めてだった。

 

 

ナチに問い詰められ勢いで言い返したあの言葉を思い返し、それを発した

自分に今更ながら驚いてしまう。

 

 

 

 『 ”放って・・・ おけない ”・・・?』

 

 

 

自分が言い放った言葉を、小さく呟いた。


そう呟くと浮かぶのは、寂しげに頬を緩めるキタジマの顔。泣きたくなる

ほどに優しいキタジマの声。本当は大きいはずなのに心許なく見えたキタ

ジマの背中・・・

 

  

あんなにコースケ一色だった毎日が、少しずつ少しずつ変化していた。

それは、自分でも気付かぬうちの事で。

 

 

コースケが好きじゃなくなった訳ではない。


それでも、やはり引っかかっている事があったのだ。

どうしても納得いかない、理解できないあれが。

 

 

 

    ・・・あの ”棘 ”が・・・

  

  

 

 

 『どうしよう・・・


  ナチに・・・ ほんとに嫌われちゃった・・・。』

 

 

 

頭を壁にもたれ掛け涙声で呟くと、目尻から流れた透明な雫が真っ白い

頬のカーブに沿って滴り落ちた。

 

 



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