■第134話 大人のフリ
『うはははははははっ!!!』
リュータが床に突っ伏して笑い転げている。
互いにバイトが入っていないその日、コースケの部屋に遊びに来ていた
リュータは、不貞腐れて口を尖らせぶつくさと文句を延々ぼやき続ける
コースケに呆れ果てていた。
腹を抱えていまだに笑い続けているリュータを、コースケは恨めしそう
な目でただ黙って睨んだ。
『好きなだけ笑ってろ! ボケっ。』
本気でムクれて強張った顔で吐き捨てたコースケに、リュータはニヤつき
ながら『悪りぃ悪りぃ。』と謝り、そしてまた大笑いした。
最近はコースケも、口を開けば ”キタジマ ”という名前ばかりだった。
リュータがニヤニヤする頬をいなし必死に笑いを堪えるも、我慢しきれず
再び腹を抱えて寝そべって笑う。
『俺・・・
お前がそーんなに分かり易い奴だったなんて知らなかったよー
もう、明らかに、どっから見たって、
そりゃー・・・ ヤキモチだろがっ!!!』
そう言うとまた体を折り曲げてリュータは笑った。
もう我慢の限界とばかりコースケは引き攣りまくった顔でおもむろに
立ち上がると、床をバンバン叩きながら笑い続けるリュータの尻を、
脚を思いっきり振り切って蹴とばした。
『死ねぇぇぇええええええ!!』
実はリュータは、そんなコースケの姿が内心とても嬉しかった。
今まではマリとタクヤのことばかり考えなによりも優先し、一人の女の子
と真正面から向き合う事などなかったのだから。
人一倍真面目なコースケは、それを避けるかのようにしてきた。
大人のフリをして、いつも穏やかに笑顔で、感情は表に出さず、人と争わ
ず競わず・・・
しかし今、目の前にいるコースケは、感情剥き出しで怒ったりすねたり、
ヤキモチを焼いたり。いつも情けない笑い顔を作っていたはずのその顔は
真っ赤になって不貞腐れ、文句を言い、眉根をひそめて怒っている。
こんなに子供っぽくジタバタ足掻くコースケなんて、長い付き合いだが見
たことがなかったのだ。
『だーかーらー・・・
・・・早くリコに言えっつってんだよっ!』
リュータが笑いながら言う。
何故こんな簡単なことが分からないのか、リュータは不思議でならない。
『・・・。』 コースケが黙りこくって、胡坐をかく背中を心許なく丸め
た。床の一点を見つめ、なにか考えあぐねるかのように。
『なんだ? フラれんのが怖いのか?
”保育士目指すロリコンには興味ありません”て
言われんのが怖いのか~ぁ?!』
『誰がロリコンだっ!!』
いまだ寝そべるリュータの頭を、思い切りグーで殴ったコースケ。
しかし ”フラれるのが怖い ”というのは、あながち見当はずれでも
無いらしい。
その俯く姿に目を遣り、リュータは優しく目を細めて呟く。
『コースケ君がフラれたら、
ボクのFカップを貸してやっからよー
泣けばいいじゃない!
泣けばいいじゃないの!! コースケ君~・・・
・・・つーかよ?
なんでお前がフラれんだよ?
リコはお前に2回も告ってんだろ?
お前の気持ちがそうなった今、
”完全なる両想い・は~と・うふふ ”ってヤツじゃねーの??
まぁ、
リコがキタジマってオヤジに惚れてなきゃの話だけど・・・。』
・・・。
コースケが再び黙りこくり、切なげに小さな小さな溜息をついた。
どうしてもキタジマの存在が気に掛かる。
タケの時なんかとは比べ物にならないくらい、あのキタジマという男が。
『キタジマか・・・。』
独り言のように、コースケがその名を呟いた。




