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■第131話 歯車


 

 

コースケは気が付いていた。

 

 

あの夜、泣きじゃくりながら一人佇むリコを抱き締めキスをした時から、

自分の中にある ”気持ち”に気が付いていた。

 

 

勿論、マリを助け支えていく事はこれからも変わらない。


しかし、それは今はもう ”愛情 ”という形から ”家族愛 ”に変わった

という事にも気が付いていたのだ。

 

 

タケがリコの傍にいた時も心配で仕方なかった。

あのどこか危うい、なにを仕出かすか分からない無表情なタケがリコを傷

つけたりしないか、目を離す事が出来ないでいた。


そして、今度はキタジマという男。

タケとは全くタイプは違うけれど、キタジマもリコに違う種類の傷つけ方

をしようとしている気がして、心配で仕方が無い。

  

 

 

 『亡くなった奥さんに似てるってなんだよ・・・。』

 

  

 

自分の中でリコへの想いが明確になった途端、どんどん気持ちは溢れ出し、

止まらない嫉妬や独占欲は、柔和なはずのコースケを苦しめた。


四六時中コースケの頭の中はリコのことばかりで、考え過ぎて眠れなくて

やっと眠れたかと思うと、今度は夢の中でもその姿を想い心配し胸を痛め

ていた。口を開けばこぼれるのは、溜息ばかりになっていた。

  

 

 

 

 『いつまでも想われる側だと思ってんなよぉ~・・・。』

 

 

ふいに、リュータにそう言われた。


リュータは気になどしていないようで、見ていないようで、意外に周りを

しっかり観察し、そして鋭い。

コースケの気持ちの変化など、全てお見通しだったのだ。

 

 

 

 『さっさとリコに言っちゃえばいーじゃん。』

  

 

 

ベッドに寝転がりマンガを読みながら、片手間にリュータは言う。

そのあまりに簡単に言うお気楽な姿を横目で睨むと、またコースケは無意

識に溜息をついた。


今まで自分の本当の気持ちは誤魔化して隠すばかりで、誰かに真正面から

向き合い自分の全てをぶつけた事など一度も無かった。

上手に笑い、交わし、当たり障りない ”いい人 ”でいるのは簡単だった

けれど、その何重にも重ねた殻を割って脱ぎ捨てる方法など知らない。


どうしていいのか分からず、コースケの情けなく丸めた背中はまるで途方

に暮れる茜空の下の迷子のようで。

 

 

 

  逢いたいと思っても、どんな丁度いい口実を作ればいいのか


  声が聴きたいと思っても、なんて電話をすればいいのか


  たった1通のメールも、どんな文章を作ればいいのか

 

 

 

嫌でも考えてしまうのは、リコがキタジマという男と四六時中一緒にいる

という事ばかり。


そのキタジマは、リコに不誠実な感情を抱いているのではないか。亡き妻

の面影を求めてリコをその代わりとして利用しているだけなのではないか。

優しいリコのことだから、情に流され自分の気持ちに蓋をして受け入れた

りしないだろうか。

 

 

悶々と考え込み、寝返りばかりを打ってベッドは小さく軋む音を立てる。

コースケは眠れない夜を幾度も過ごしていた。

 

 

 

  

 

そして、リコも一人、部屋の窓から夜空を見上げて溜息をついていた。


”あのキス ”の事を、内心傷付いていたのだった。

  

 

 

 『いくら酔ってたからって・・・ 酷いよ・・・


  ・・・私のこと。 好きでもナンでもないくせに・・・。』

  

 

 

コースケの前では、”あのキス ”の事は知らないフリをしていたリコ。

本当ならば、好きで好きで仕方ない人からの思いもよらないキスが嬉しく

ないはずは無い。


しかし、無条件に100%喜ぶなんて到底出来なかった。

 

 

 

  (マリさんのことが、好きなくせに・・・。)

 

 

 

思い返すと、ナイフで突き刺されたように胸は鋭い痛みを憶える。

苦しくて苦しくて、ベッドに突っ伏し枕に顔をうずめて身体を丸めた。

 

 

 

 『こんな事なら、知らない方が良かった・・・。』

 

 

 

ひとり、涙声で震えて呟くリコに、ほんの少し開けた窓から流れた夜風

がまるでいたわる様に優しくそよいだ。

  

  

遂に歯車が噛み合いそうで、しかし中々噛み合うことが出来ず・・・

リコとコースケは、こんな歯痒いすれ違いを繰り返していたのだった。

 

 


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