↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
122/227

■第122話 予想外の・・・


 

 

ナチは一人、小さく溜息を付きながら学食のテラスに佇んでいた。

 

 

今まで生きてきた中で一番頑張って勉強し、なんとか獲得した有名短大への

入学切符も、実際スタートしてみると周りには知り合いが一人もいない状況。


同じ出身高からの進学者は一人もいず、完全にゼロから始まった環境に思わ

ずしょんぼりと心許なく俯く。

 

 

基本的に物怖じしないナチも、常に一緒に行動を共にするリコのような友達

が出来ないのが心細くて寂しかった。ふと視線を流し周りを見渡すと、同じ

出身校同士であろう子たちが愉しそうに笑い合い、大学生活を大いに謳歌し

ている姿が目に入る。


その笑い声に、ナチの細い肩は更に小さく縮まり、口からこぼれるのは声は

おろか、かすれてスカスカの溜息だけだった。

 

 

 

  

講義がはじまった初日のお昼休み。

 

 

混み合う学食のテラスで、ひとり、窓の外を眺めながら持参したお弁当を食

べていたナチ。お腹は空いているというのに、なんだか味気なくてただ数回

咀嚼して飲み込むだけの行為を繰り返していた。


周りの子たちは友達同士でギューギュー詰めになって窮屈そうに座り、賑や

かにしゃべって笑ってばかりいて、注文した学食や広げたお弁当を食べる手

は一向に進んでいない。


その弾むようなカラフルな笑い声は、ナチにとっては正直なところ耳障りに

しか思えない。一人ぼっちで座るその4人掛け席は必然的に他には誰もいず、

周りの混雑とは別世界で ”一人です ”とアピールしているようだった。

 

 

すると、背後から憮然とする声色が聴こえた。

 

 

 

 『一人なら、4人掛けの席使わないでくれない?』

 

 

 

そう痛い所を突かれナチが一瞬固まり、ムっとして眉根を寄せる。


なにか言い返そうと、痛烈な文句を考えるもグサリと刺さった棘に思い切り

動揺しナチは結局なにも言い返せずに、口を尖らせて振り返ると。

 

 

  

  

 

    『ァ、アカリっ?!』

 

  

  

 

 

そこにはニヤニヤしながら学食トレイを持って立つアカリの姿があった。


顎をツンと上げ憎たらしいすまし顔を向け、相変わらず見た目だけはモデルの

ように麗しい佇まいで、細く長い脚を見せつけるようにポージングして。

  

 

 

 『・・・え?? 

 

 

  な、なに??


  どうゆう事?? アンタ・・・ ど、どうしたのよ?!』

 

 

 

もう完全にパニック状態のナチ。


いるはずない人間が目の前に立っていて、それは唯一の知合いで、おまけ

に友達で。それも誰でもない、あの、アカリなのだから。

 

  

そんな絵に描いたような狼狽するナチを目に、アカリは満足そうにニヤリ

と口角を上げ、学食のトレーをナチの向かいのテーブルに置くとシレっと

涼しい顔をして座った。長い長い脚を組んで見せ、胸の前で腕を組んで。

 

 

 

 『何って、なによ?


  ここにいるって事は、学生に決まってんじゃないのよ。』

 

 

 

実はアカリもナチと同じ学校を受験し、合格していたのだ。


その当時リュータから離れたナチはリカコにだけ進学先の話をしていた。

アカリはその情報をいち早く入手し、ギリギリまでリュータにも内緒にし

てこっそり受験していたのだった。合格して初めてリュータに話をした時

もこの事をナチには決して漏らさぬよう堅く堅く口止めしていた。

 

 

どうりで、ナチが ”新しい環境や友達が出来るかどうか ”の不安を口に

しても、リュータはやたらとニヤニヤ笑って『絶対、大丈夫だっつーの!』

と繰り返していた訳だ。

 

 

ナチは、思ってもみなかった展開に嬉しくて嬉しくてアカリに飛びつきたい

衝動を必死に堪える。どうしても緩んでゆく火照った頬や口元を必死にいな

しかすかに潤んでしまう目を慌てて逸らして隠す。


アカリもまた、今にも満面の笑みをこぼしそうになるのを無理やり絞り出し

た乾いた咳払いで誤魔化す。

 

 

そして、似たもの同士の素直じゃない二人は、

 

 

 

 『せっかく平和な毎日になると思ったのに・・・。』


 『せっかく平和な毎日になると思ったのに・・・。』

 

 

 

と、見え見えの悪態をついた。


学食テラスで向かい合い座る二人のテーブルからは、周りのどの学生達の席

よりも賑やかで明るくて、まるで色とりどりのスーパーボールが跳ねるよう

な笑い声が溢れた。

  

  

 

それからは、ナチとアカリは姉妹のように常に一緒にいた。


しかし周りから見るとケンカをしているのかと思うように言い合い、けなし

合いを相変わらず飽きずに繰り返していた。

それがナチとアカリの最上級の友情の表現方法だった。

 

 

アカリは進学に伴い、実家を離れてリュータの部屋での同居を始めていた。

リュータもやっと松葉杖がはずれ愛猫あおいと共にコースケの所から引き上

げていて、アパートでの通常の生活に戻っていたのだった。

 

  

  

 『ねぇ。 今日、ウチ来な~い?』

 

 

 

アカリのその言葉にナチは少しドキっとする。


実はリュータと付き合いはじめて未だ一度も、リュータの一人暮らしの部屋

には入った事が無かったのだ。

 

 

ケガをしてコースケの所に居候していたからというのが理由だが、男の人の

一人暮らしの部屋に一人で行くという事に、ナチは過剰に意識してしまって

いた。リュータからもまだ誘われてはいなかったが、頑なに行かないのも何

か不自然で逆に恥ずかしくて、かと言って毎回リコを誘うのも憚られた。

  

 

 

 (アカリがいるなら平気かな・・・。)

  

 

 

ナチはやっと、気楽にリュータの部屋を訪ねられる事を内心喜んでいた。

なんだか急に色んな事がパっと明るく色付き、胸の奥がワクワクで溢れる。

 

  

不安一色だった毎日が、突然キラキラ輝きはじめた。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。