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■第121話 助手orパシリ


 

 

 『タカナシーーーーー!!!』

 

 

 

長い渡り廊下の奥から、キタジマの叫ぶ声が響いている。

 

 

壁に天井にその低い声は跳ね返り、辺りにいた面々が何事かと声がする方を

見つめるも、当の叫んだ本人は他人の目など一切気にする様子もなく、首の

後ろをボリボリ掻きながらヨレヨレの上着ポケットに突っ込んでいた手を出

し気怠そうにリコへと手招きする。


お昼休み、リコが友達と学食でのんびりとランチをしているところを通りか

かったキタジマにうっかり見られてしまい、すぐさま召集が掛かったのだ。

 

 

 

 『リコちゃん・・・


  また、あの変な人が呼んでるよ・・・。』

 

 

 

入学から数週間経ち、最初不安の種だった友達もちゃんと出来たリコだった

がその友達にも ”あの人と二人で部屋にこもって大丈夫なの? ”と心配さ

れる始末だった。

 

 

キタジマの風貌は、伸ばしているのかただ切ってないのか分からないボサボ

サの髪に、無精髭。メガネで常に咥えタバコ、そしてヘッドフォン。絵具だ

らけのヨレヨレのシャツは、元の色は何色だったか今はもう分からない。


人を寄せ付けないようなその空気は、長身で痩せた神経質そうな猫背から醸

し出されるものが大きいのかもしれない。なによりキタジマ自身が人と関わ

ることを極力避けているように見えた。

 

 

今まで ”リコ ”と下の名前でしか呼ばれた事が無かったので、最初は自分

が呼ばれている事に気付くのに時間がかかった。

実際 ”タカナシ ”と苗字を呼び捨てするのはキタジマぐらいなものだった。

 

 

そしていつの間にか、よく言えば ”助手 ”、結局のところ ”使いっ走り ”

となったリコは講義が終わった後や空いた時間になると、キタジマの所に通

っていたのだった。

 

 

 

『遅せぇぞ、タカナシ。』 ぶっきら棒に文句を呟き、わざわざ昼食中に呼び

付けた用事は何かと思えば、

 

 

 

 『駅前の角の肉屋で、メンチカツ。』

 

 

 『・・・・・・・・・・・・・・。』

 

 

 

こんな具合だった。

 

 

しかし、リコはキタジマの描く絵を見るのがとても好きだった。


毎日毎日キタジマのキャンバスを眺め、あたたかくやわらかい風景が完成

する日をワクワクしながら楽しみにしていた。

なんだか色んな刺激を受けられて、決して無駄な時間ではない気がしてい

たのだった。

 

 

それに、人が言うほどキタジマは悪い人間ではないように思えた。


コースケやリュータの様に人懐く愛想がいいタイプでは決してないけれど、

それはただ単に底抜けに不器用なだけだった。

口数も少ないしぶっきら棒だが、その人間性はしっかり絵に滲み出ている。

 

 

昼食の箸を持つ手を置いてパタパタとキタジマの元へ駆け寄ったリコは、

またしても仰せつかった ”仕事 ”という名のただのお使いに思い切り怪訝

に顔をしかめる。

 

 

 

 『えぇ・・・


  あそこって凄い人気で、並ばないと買えな・・・』

 

 

 『だーかーら、お前を呼んだんだろが。


  早く行け! ダッシュだ、ダッシュ!!』

 

  

 

リコはブツブツ文句を言いながら、お弁当箱をハンカチで包んで片付けると

不安気な目を向ける友達にやんわりと苦笑いを返し、メンチカツを求め走っ

て校舎を出た。

 

 

 

 『なんで私が・・・


  まだお昼食べてる途中だったってゆうのに・・・


  ・・・なんなの? アノ人・・・

 

 

  もぉぉぉおおおおおおおお!!!』

 

 

 

駅前までの道すがら、ひたすらキタジマへの不平不満をひとりごちながらも

リコはここ最近、四六時中頭の中を占めるキタジマの絵の事を考えていた。

 

 

 

 (あんなボリュームで曲聴きながら、


  どんな事考えて描いてるんだろ・・・?)

 

 

 

キタジマは基本的には、殆どしゃべらなかった。


口を開く時は大抵 ”コーヒー ”か ”タバコ ”か ”メンチカツ ”。

なにか質問しても気が向かないと答えてはくれなかったし、聴こえている

くせに聴こえないフリもしょっちゅうだった。憎たらしい程に分かり易く

無視するその横顔を、リコは目を眇めて睨んだ。

 

 

しかし謎だらけの無口なキタジマという人間を、リコはどんどん気になり

始めもっともっと知りたくなっていった。

 

 

どんなことを考えながら描いていて、どんなキッカケで絵を描くようにな

って、どんな景色に心を奪われるのか。


リコの今後の絵に多大な影響を与えるであろう、キタジマのバックグラウ

ンドを知りたくて知りたくて仕方がなくなっていたのだった。

 

 

その為には、パシリだろうがなんだろうがキタジマの教室に通う事が苦で

は無かった。気が付くとキタジマの元へ通う為に学校に行っているような

感じになっていた。

 

 

 

 

 

 『キタジマさ~ん・・・ 今日はもう売り切れでしたぁ・・・。』

 

 

 『あぁ~?? 明日は買ってから来いっ!!』

  

 

 

 

 『そんなぁ~・・・。』

 

 

 


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