■第12話 学祭のはじまり
約束の土曜日は、気持ちよく晴れて真っ青な空が広がっていた。
それはあまりに澄み渡って美しくて、心の奥に秘めたことなどいとも
簡単に見透かされてしまいそうな程で。
リコとナチは駅前で待合せて合流し、約束の13時に大学正面玄関前で
コースケの姿を待った。
落ち着きのなさが露呈しないよう、こっそり深呼吸をして必死に平静を
装うリコ。しかしチラリと横目で確認するとナチまでもが何故かソワソワ
しているように見えた。
もの凄い人でごった返す賑やかな校内。
ハッピを着た人、派手なフェイスペインティングをした人、着ぐるみの人。
色とりどりに飾り付けられた校舎にあちこちから響いている笑い声。
リコ達の女子高の学祭とはまるで違う大人っぽさに、二人は思わず気後れ
して不安そうに目を向け合った。
心許ない視線で、それでもリコは必死にコースケを探す。
こんな人混みでも、すぐコースケを見付けられるような気がしていた。
まだ、たった2回しか会ってはいないけれど、脳裏にはあの笑顔。
リコは少し爪先立ちで背伸びをして、雑踏の奥に目を凝らす。
道路脇に並ぶ屋台テントの陰に、風船を配るピエロの奥に、チラシを配る
人の背後に。
すると、向こう側から小走りでこちらに向かって来るエプロン姿が見えた。
(来た・・・。)
それは、1ヶ月ぶりのコースケの姿。
焼きそばのソースらしきシミが付いたエプロンをして、あの困ったような
笑顔で辺りをキョロキョロと見渡している。
(探してる・・・
私はすぐに、コーチャン先生を見付けられるけど
コーチャン先生は、私を見付けられずに探してる・・・
私は・・・ すぐには、見付けてはもらえないんだ・・・。)
そんなの分かり切っていた事だったけれど、改めてリコは痛感していた。
期待などしたって意味がないと頭では分かりつつも、心はほんの少しの
希望を欲する。胸の奥がきゅぅっと締め付けられ熱を帯びた。
『コーチャン先生っ!!!』
泣きそうな顔を慌てて大袈裟に笑顔に変えて、大きく大きく手を振った。
その声にナチも慌ててリコの視線の先を目で追う。
『すぐ分かった?』
慌てて小走りしてやって来たコースケが、腰に手を当て少し体を屈めた。
そして、柔らかく頬を緩める。
(あぁ・・・ この笑顔・・・。)
『ちゃんと、分かりましたよ!
ぁ、えーと・・・ 今日は、友達のナチと来ました。』
リコの紹介に、コースケとナチが挨拶を交わす。
コースケは持ち前の人懐こい雰囲気で、ナチに対してもリコへのそれと同じ
笑顔を向け歓迎の意を表した。
そんなの当たり前のことだけれど、どこか、ちょっと、胸が痛む。
『さっすが先生!! エプロン似合いますね~!』
手を伸ばせば触れられそうな位置に立つ目の前のコースケに、リコはドキ
ドキする潤んだ瞳をごまかす為、少し大袈裟に声を上げた。
それは本当に似合うからそう言っただけだったのだが、コースケはまた
リコの頭頂部を全然痛くない垂直チョップをしてニヒヒと笑う。
『オイ、JKっ!! まーた、バカにしてやがんなっ!!』
ナチが目の端でチラッとリコを見て、なにか言いたげな顔を作り俯いた。
二人はコースケに案内されて、例の焼きそば屋へ向かう。
高校生らしき姿も結構多かったが、やはり大学の学祭。
賑やかさも集う人達もどこか大人びていて、なんだか雰囲気が違う。
連れて行かれた屋台の焼きそば屋には、コースケの友達らしき数名が店番を
していた。
お客はまばらで繁盛はしていなそうだったけれど、そんな事はどうでも良さ
そうだった。愉しそうな笑い声が鉄板の香ばしい焼き音と共に響いている。
コースケが簡単に友達を紹介した。
みな同じ大学の2年らしく、高校の時から一緒だという。
(高校生のコーチャン先生って、どんなだったんだろ・・・。)
リコはふと気付くとそんな事ばかり考えている自分に、一人、呆れて小さく
笑った。




