■第113話 おかえりパーティー
『ねぇ、やっぱ飲み行かな~い?』
急に気が変わったリカコが、ファミレスに向かう途中で言い出した。
先頭をコースケが歩き、その後ろをリコとナチ・タケ。松葉杖でノロノロ歩く
リュータを転ばそうとちょっかい掛けながら、リカコが突然立ち止まって満天
の星空を見上げ、その美しさに目を細めながら上機嫌に口角をニヤリと上げて。
しかしリコ達は高校を卒業はしたが、一応まだ未成年なので店で飲むのはマズ
いという話になり、みんなで買出しをしてコースケのところで部屋飲みをする
事になった。
『ぁ、もしもしお母さん?
今日リカコさんが帰国したから、みんなで・・・。』
踵を返してファミレスからコンビニへ方向転換しながら、リコは自宅に連絡を
入れる。ナチも同じように親に電話をするも、それを渋り中々了承しないナチ
の母親にリカコが電話を代わって ”優等生ボイス ”でいとも簡単に話をつけ
た。今夜はコースケの家で、泊まりでのリカコおかえりパーティになった。
みんなでする買出しは相も変わらずまとまりがなく、全員が全員飲みたい物も
食べたい物もバラバラで、コンビニ袋を一人2袋抱えるという有り得ない買出
し量になっていた。
6人でギューギュー詰めの、コースケの部屋。
でも、それがやたら楽しくて嬉しくて、みんなが笑顔だった。
コースケとリュータは同居生活をしている為しょっちゅう二人で飲んでいるけ
れど、久々の大人数での部屋飲みにテンションが上がっていた。
タケはリカコにすっかり気に入られやたらと可愛がられて、アルコールが入っ
たせいもあり、気が付くと ”リカコ先生のお悩み相談室 ”が始まっていた。
ナチは全くアルコールが受け付けない体質らしく、甘ったるいチューハイを少
し飲んだだけで真っ赤な顔になっている。リュータは心配そうにまるで保護者
のようにナチに気を配り、飲めないくせに飲もうとするナチの手から缶を奪っ
てお茶のペットボトルを渡す。ナチはそれに不満気に膨れながらも、わずかな
アルコールで普段の3割増で大きな声でよく喋るようになっていた。
リコは、意外とアルコールに強いらしくチューハイを何本飲んでも顔色ひとつ
変わらなかった。それを面白がり、リュータとリカコがどんどん飲ませるも、
平気な顔をしてペースを合わせて飲んでいるリコ。
コースケだけが困った顔を向け、そんなリコを心配そうに見ていた。
それは、飲み始めてから数時間立ち、深夜2時を過ぎた頃。
さすがに飲み過ぎて各々床にごろ寝したり、コースケのベットに横になったり
ソファーにもたれていたり。
深夜の部屋には、みんなの幸せそうな寝息が不規則に響いていた。
すると、さすがに飲み過ぎて酷く酔っ払ったリコがよろけながら起き上り、
ふらふらと心許無い足取りでコースケの部屋を出て行く。
階段の手摺りにしがみ付くようにしながら、踏面を一歩ずつ一歩ずつ下りる。
途中挫けたように踏面にちょこんと座り、暫し膝に顔を突っ伏して休憩した。
そうやって長い時間を掛け、リコの脚はふらつきながら真っ直ぐ目指す園の遊
戯室へと辿り着いた。
静かに遊戯室の扉を右にスライドして開け、月明かりだけが差し込む暗いそこ
へと脚を踏み入れる。年季が入りキレイに磨かれたオークの床を一歩ずつ進む
とそれに合わせてミシっと小さな小さな小気味よい音が響いた。
リコは酔って焦点が定まらない目で、壁一面のイラストの数々を眺める。
コースケ一人で頑張ったもの、リコとふたりで描いたもの、どれもこれも愛し
くて仕方なかった。
ヨロヨロと心許無い足取りで進み、そっと壁に寄り添ったリコ。
そこにはコースケが描いた ”腹黒顔の花さかじいさん ”のイラストがある。
それは怪我をしたリコを待つ間に、コースケが懸命にひとりで描いたものだ
った。
酔ってほんのり熱を帯びた細い指先で、そっと絵に触れる。
ひんやり冷たくて、気持ちがいい。
静かに目を閉じる。
そしてそっとおでこを付けて、愛おしくて仕方なさそうにリコは壁のイラスト
に寄り添っていた。
ほんの小さく笑い、そして口をつぐむ。
すると、震える心の奥底から抑え切れない感情が溢れ出した。
お酒が入っていたせいもあるのだろう。心が言葉となって、後から後からこぼ
れ落ちる。
『・・・・好き・・。
好き・・・ 好きぃ・・・・。
コーチャン、先生・・・が・・・
・・・大好き・・・・・・・・・・
・・・く、苦しいなぁ・・・
好き、って・・・
苦し、い・・・なぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
ぎゅっと閉じたままの瞳から、一筋の涙が流れ頬のカーブを伝って零れる。
その時、ふっと背中に温かさを感じた。
背後からリコの両肩に大きな手が添えられ、突然のそれにリコが驚いて振り
返ると、壁に背中をつけ寄り掛かったままその人と向き合う形になった。
(・・・・・・・・・・・・・・誰?)
暗くて、よく見えない。
酔っ払っているリコが必死に目をこらすが、暗がりに視界がぼやけて輪郭しか
分からない。
その瞬間。
。。。。。
リコのおでこに優しく優しく唇が押し当てられ、ぎゅっと抱き締められた。
その瞬間、リコはヨロヨロとその場に崩れ落ちた。
遠のく意識の中で、リコはその見慣れた輪郭を確かに感じていた。




