■第112話 リカコ帰国
『リカコっ!!!』
『リカコさんっ!!!』
『お前っ・・・』
『リカコさんだっ!!!』
コースケ・リコ・リュータ・ナチが同時にその名を呼んだ。
『せ~の!で、一緒に言いなさいよ。』
数か月ぶりの再会だというのに、リカコは事前に帰国の連絡ひとつ寄越さず、
おまけにケータイは充電が切れた為になんとなくフラっとコースケの実家に
立ち寄ってみたという。
リカコは相変わらずクールで男前だった。
モデルのように細く長い脚はスキニーパンツにより更に美しく強調され、
以前よりバッチリメイクのその顔はつけまつ毛とぽってり厚いグロスの唇で
普通ならフェロモンが充ち充ちているはずなのに、そう感じないのは内面か
ら溢れる男っぽさが所以か。
一同が興奮するそんな空気の中、タケだけが事態が把握できずキョロキョロ
していた。自分だけが取り残され、しかし皆はいまだ赤い顔をして喜んだり
呆れたりで、タケのことなどすっかり忘れ盛り上がり続けている。
すると、リカコがスリッパの気怠く擦る足音を立てて真っ直ぐ近付いて来た。
『どーも。 私、リカコ。』
握手の手を出す。
それは真っ白で細くてネイルが煌びやかで、タケは触れることに一瞬ためらう
も、リカコは有無を言わせずにむんずとその手をしっかり握ってブンブンと乱
暴に振って握手した。
『タ、タケ・・・です。
ぁ、あの・・・ リコと、ナチの・・・ 中学の、同級・・・』
『どっちかの元カレ?』
タケのシドロモドロな自己紹介を途中で遮り、リカコが口を挟んだ。
グングン距離を詰めて来るその勢いに気圧されるも、何故か不思議とそれは嫌
じゃない。裏表がないそのストレートな感じが、タケには逆に小気味よかった。
『ちちちち違いますよっ!!』
取り敢えず、タケは目を白黒させ赤くなってリカコの発言を全否定する。
しかし、『ん~??』と尚もタケを下から横から覗き込むように表情を読み取
ろうとするリカコに、タケはタジタジで数歩後退りする。
そんな様子に、リュータがタケに申し訳なさそうに言った。
呆れたように目を眇め胸の前で腕を組んで、『リカコっ!!』と声を張り、
性急すぎるタケへの距離の詰め方を諭して。
『コレ、大学の仲間のリカコ。
海外に行ってたんだけど・・・
っつうか。 お前、帰って来たの??』
すると、遊戯室の園児のイスを引き無理矢理お尻を押し込めて座って長く細い
脚を組み、リカコは怠そうに言った。
『ちょっと一回戻っただけ。
むこうの方がイイ男が多くて楽しいから、
一週間くらいしたらまた行く。』
なんだか海外に行ったら、リカコのサバサバ具合がより増した気がする。
シレっと言い放つリカコを、ナチは嬉しくて堪らなそうにウルウルに潤む目で
見つめ、咄嗟に駆け寄って抱き付いた。
『久しぶり~・・・
・・・リカコさん、会いたかったよぉ~・・・。』
ナチは母親に全身で愛情表現する幼子のように、リカコに強く抱き付いて離れ
ない。暫し、スリスリと擦り寄りリカコの高級そうな香水の香りを堪能すると、
照れくさそうに頬を緩めコソコソとリカコに耳打ちしたナチ。
それを報告するその顔は、嬉しそうに頬がほんのりさくら色に染まって。
『ふぅ~ん・・・
やーぁっと、まとまったかっ?! 良かったじゃん!!』
そう言ってナチの頭を撫でハグをしながら、リカコは横目でリュータを見て厭
らしくニヤつき言った。
『リュータさぁ~ん!
若くて可愛い子ゲットして、幸せ者ねぇ~?』
リカコにからかわれ、『うっせ!』と眉根をひそめ一蹴するリュータ。
改めて言われると照れくさくて仕方がなくて、リュータは不機嫌そうに舌打ち
を打った。そんなリュータを、リカコは嬉しそうに見つめる。
次に、リカコはチラっとリコに視線を流す。
しかしリコは笑顔で肩をすくめ、目を伏せて小さく小さく首を横に振った。
きっと状況は変わっていないだろうとは思いつつも、リコにも幸せになってほ
しいリカコは溜息のようにひとつ息を吐く。
『コースケ・・・
・・・アンタは、相っ変わらずみたいね。』
チクっと嫌味を言ってみたが、コースケは『おぉ、元気だよ!』と満面の情け
ない笑みを返し、嫌味だという事に気付く気配は微塵もなかった。
せっかく数か月ぶりに全員が集まったので、皆でいつものファミレスに行って
お茶でもしようという話になった。
リコとコースケはイラスト描きの片付けをはじめ、リュータとナチは荷物を持
ってもうさっさと玄関先へと向かってしまった。
タケだけが一人、自分は部外者な気がして参加していいものかどうか悩んでい
た。すると、そんなタケの少し寂しげな背中に気付いたのはリカコだった。
『タケ! 来ないなんて言わせないよっ!』
リカコは拒否権など与える隙もなくタケの腕を掴んでグングン引っ張る。
そのあまりに強引な、しかし温かいリカコの手の強さにタケは困り顔で眉尻を
下げ笑う。
(もし僕に姉さんがいたとしたら・・・
リカコさんみたいな、こんな感じなのかなぁ・・・。)
タケは心の中で呟き、小さく小さく照れくさそうに頬を緩めた。
すると、リカコは急にタケの耳元に顔を寄せコソコソと耳打ちする。
『・・・で? どっち?』
言われている意味が分からずタケがハテナ顔をしてリカコを見返すと、
『リコか・・・。』と小声で囁き覗き込まれる。
意味が分かったタケがちょっと苦い顔を向け目を逸らすと、リカコは天を仰い
で大きな大きな溜息を付いた。
『片想いばっかだねぇ~ ここの仲間って・・・。』
そんな仲間を愛おしくて仕方なさそうに、リカコは目を細め情けなく笑った。




