■第110話 本音
『お前もさ~・・・
姑息なマネしてないで、正々堂々ぶつかってみればぁ~?』
ナチがリコ達の方へ行き周りには自分達だけなのを確認して、リュータは
ぼそりとタケに聞こえよがしに呟いた。
『・・・なんの話ですか?』
タケが笑って訊き返す。しかし、その目の奥は笑ってなどいない。
リュータのそれが、諸々見抜いて上から物を言っているように感じ、タケは
一気に込み上げるイライラをなんとか鎮めようとするも、それは顕著に表情
に出てしまっている。
リュータはまだ少し不自由な脚で壁に寄り掛かり立っていたが、ゆっくりと
壁に背中を付けてしゃがむと、足を投げ出して床に座った。
そしてポンポンと床を叩き、タケも隣に座るようジェスチャーで促す。
しかしタケはそれを無視し、頑なにその場に立ち壁に寄りかかったままだっ
た。まるで反抗期のようなその態度。表情も強張っているのを必死に冷笑に
変えようとしているその姿は、大人ぶろうと躍起になる小学生のようで。
その様子を見て、リュータが少し頬を緩め笑った。
しかしそれは馬鹿にした笑いではなく、少し気の毒なような切なさが込み上
げるような。何故かタケに対して腹は立たなかった。ただただもっと肩の力
を抜く方法を見付けてあげたいという一心だった。
リュータは確信を突いていいものかどうか悩み、少し口をつぐむ。
そして、チラリと一瞬タケに目を遣り出来るだけ穏やかに呟いた。
『・・・好きなんだろ?』
『・・・。』 タケはそれが聴こえているくせに、返事をしない。
リュータは聴こえているはずだという前提の元、例え反応はなくとも続ける。
『お前見てりゃー、分かるっつうの。
リコの事しか見えてないし、常に目で追ってるし、気にしてるし。
・・・中学ん時だって、
本当は、離れたくなかったんだろ・・・?』
その柔らかい声色に、タケはぐっと胸が息苦しくなり慌てて冷静になろうと
視線を泳がす。体の横で垂れた手の指は落ち着きなく爪をはじいて。
『つうかさ。
なんで、ちゃんとぶつかんねぇーんだよ?
仲良しこよしのお友達関係が壊れるのが怖いのかぁ?
フラれんのが怖いのかぁ?
今のまま、ただ近くにいられればいいって訳じゃねぇーんだろ?』
それはまるで兄のような言葉で、今まで年上の同性にこんな風に親身になっ
てもらったことがないタケは、どう反応したらいいのか分からず俯く。
しかし、ほんの少しだけ気を許したようにタケは静かに静かに、ゆっくり
リュータの隣の床にしゃがみ込んだ。
リュータは横目でそんなタケを見るも、答えを急かしたりはしない。
ただ黙ってリコ達を見つめながらタケの口から出る言葉を待つも、聞こえた
のは苦しげな溜息だけだった。
やや暫く、沈黙が続く。
しかしその沈黙は嫌なそれではなかった。タケの心の氷がじんわり溶けるの
をひたすら待つような、のんびりした時間だった。
すると、『本当の僕を知ったら、離れてくに決まってる・・・。』
タケのそれは、まるで涙を堪えるような小さな小さな呟きだった。
『僕は・・・
親に愛されて育ってないから、
どうやって人を大切にすればいいのか、分からない・・・
上辺だけでもニコニコして、いい奴のフリ続けてなきゃ
みんな・・・
あっという間に、僕の傍から居なくなるに決まってる・・・。』
そんなタケは、まるでいじける子供のように小さく見えた。
床にしゃがみ込むその身体は膝を抱えて顔を突っ伏して、覗いた耳は真っ赤
に染まり痛々しいほどで。
リュータは、そんなタケの心許なく縮まる肩をポンと叩く。
『まずは、自分の足で一歩前に出るとっから始めれば~?』
タケが顔を上げて、はじめて真っ直ぐリュータを見た。
『早く仕事見つけて、自活はじめて、ちゃんと自分の足で立って。
自分に自信もたないと・・・
それからじゃないと、お前の卑屈な感じは抜けきんねえんじゃねぇ?
・・・てゆうか。
別に、上辺だけのいい奴なんかじゃないと思うけど。
・・・その一番の証拠が、
アイツらがお前の事を親友だと思ってるって事だろ・・・。』
ぎゅっと口を真一文字につぐんで、タケは膝にうずめていた顔を少しだけ上げ
た。眇めた目だけ出して、じっと真っ直ぐ先を睨んでいる。
そして、リュータに宣言するように低い声で言い放った。
『リコを・・・
・・・リコを一番に大切にしようとしない、アイツだけは・・・
・・・アイツにだけは・・・ ゼッタイに渡したくない・・・。』
タケが睨むその先には、リコと笑い合うコースケがいた。




