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■第103話 疑惑


 

 

昼下がりのコースケの部屋に、ケラケラと愉しそうな笑い声がシンクロする。


居候のリュータの元へ、ナチが遊びに来ていた。

短大が始まるまでの間、ナチは何もする事がないという口実でいまだ松葉杖の

リュータが世話になるコースケの部屋を毎日訪れていたのだった。

コースケはバイトで留守だった為、正直なところ余計にナチには嬉しい日々だ

った。

 

 

 

 『・・・タケって、どんな奴だった?』

 

 

 

突然なにかを思い出したような顔で、リュータは隣で体育座りするナチを見る。


リュータがする質問の意図がさっぱり分からないナチ。

眉根をひそめて目を眇め、ついでに唇も尖らせる。そして質問には答えずに

逆に質問返しをした。

 

 

 

 『ねぇ。 随分この間から、タケのこと気にしてない?』

 

 

 

ナチが訝しがってリュータの顔を覗き込む。


ナチにとって、タケはリコと同じくらい大切な友達なのだ。なにか物言いた

げに含みを持つリュータのそれがどうしても納得いかなかった。

 

 

 

 『好みのタイプなんだよ。』

 

 

 

ナチの不満気な表情を横目に、リュータが慌てておどけてはぐらかす。


タケはリコを好いているように見えるし、コースケを敵視しているんじゃない

かなんてナチに言ったところで、どうしようもない事は分かっているのだ。

むしろ、ナチを板挟みにして苦しめてしまうかもしれない可能性だってある。

 

 

ナチは一瞥すると『バカじゃないの。』とアッサリ一蹴して相手にしない。

 

 

しかし、それから少し黙りこくって体育座りをする曲げた膝におでこを付けて

考え込んでいた。


そして、ポツリポツリと静かに話し始めた。

 

  

 

 『タケはねぇ・・・


  基本的には凄い優等生タイプだったよ。 真面目だしね。


  家庭環境がちょっと複雑で、親の犠牲になってた感じ・・・

  

  

  よくリコの家に3人で遊びに行ってたんだけど、


  リコのお母さんにすっごい懐いてたかな。 息子みたいにね・・・

 

 

  リコとはまるで兄妹みたいだったなぁ~・・・。』

 

 

 

リュータが『ふぅ~ん。』と相槌を打つ。

フローリングに直に座って投げ出したギブスの脚をゆらゆらと揺らしながら。

 

 

 

 『当時と今と、リコに対する接し方は変わってねぇの?』

 

 

 

リュータの ”その手の質問 ”の意図がやはり分からないナチ。


自分達の関係性を男女のそれで一絡げにされたくない。当時からそんな垣根

を越えて信頼し合っている自信があるのだ。3人のバランスを乱すような事

は例えリュータでも言ってほしくなかった。

 

 

 

 『なんなの??


  あのふたりは、全然そうゆうんじゃないってばぁ!!

 

 

  それに・・・


  タケは、子供の頃から好きな子がいるって言ってたし。』

  

  

  

『それがリコなんじゃ・・・?』 ナチへと身を乗り出すリュータ。

 

 

しかしナチが最後まで言わせず制する。

 

 

 

 『私達は中学からの仲なの。


  ”子供の頃 ”ってゆうのは違うよ。』

 

 

 

そう言い切ってしかめ面をした。ナチにはリュータが思うところがやはり分から

ない。なんだか自分一人取り残されているような気持ちになって、ナチの不満気

な顔が少しずつ寂しげなそれに変わる。


『なに考えてんのか教えてよ・・・。』 ちょっと不貞腐れたように呟いた。

 

 

リュータが少し無言で考え込み、斜め上をぼんやり見つめたまま瞬きを繰り返す。

そして、口を開いた。 『・・・いや。 俺の考え過ぎだ、きっと。』

 

 

そう言ってナチに向かって優しく微笑み両手を広げた。


ナチは一瞬睨む様に見眇め、しかし我慢出来ずにその頬ははにかんで微笑み返す。

そして、リュータの胸にぎゅっと抱きついた。

二人の胸がピッタリくっ付き、互いの心臓が嬉しそうに跳ねる音が鳴り響く。

言葉に出さなくても溢れそうなほどの想いが相手に伝わっている気がした。

 

 

リュータがそっとナチの肩に手を置き名残惜しそうに体を離す。そして顔を傾け

ナチの薄い唇に触れようとしたその瞬間。ナチが中指をパチンと弾いてリュータ

のおでこにデコピンをした。

 

 

 

 『ここ、コースケさんの部屋!!


  ・・・ってゆうか、昼間っから何しようとしてんのよ、まったく・・・。』

 

 

 

照れくさそうに膨れっ面を向けるナチを、リュータは愛おしそうに見つめ笑った。 

  

  

 

 

 

リコは外出先のスケッチをしていた公園からタケにメールを送信した。


電話にしようか少し迷い、しかし集中して履歴書がきをしていたとしたらメール

の方が後から都合いい時に返信出来るし良いかと、まどろっこしく気を回して。

すると、すぐにリコのケータイに返信が来たメロディが響いた。

 

 

 

  ◆From:タケ


  ◆Title:まったく・・・


  ◆僕は子供じゃないんだから(笑)


   心配しないで思いっきりスケッチしておいで!

 

 

 

この返信メールを見つめ、リコはどこかホっとしたように大きく息をついた。


小さな画面の中のタケは、リコが知っている大切な友達のタケだった。

昨夜のあの怖い表情は、自分の思い違いだと。タケはあの頃のままの、優しく

穏やかなタケのままだと、必死にそう思おうとしていたのだった。

 

 

 


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