■第102話 タケの想い
『えっ?!
・・・タケ、好きな子なんかいたのぉ~??』
タケの照れくさそうに呟いたその言葉に、ナチが食い付いた。
飛び上がる程にやけに嬉しそうに身を乗り出すと、隣のリコの肩を乱暴に揺ら
して、ナチは『ねぇ、知ってたぁ~?』と興奮気味にリコを覗き込む。
リコはなんだかこの話題はこれ以上掘り下げたくない気がした。一拍遅れて慌
てて首を横に振ると、小さくナチに続いた。 『・・・いたんだ?』
するとタケが相変わらず真っ直ぐリコを射るように見眇めたまま、言う。
『子供ん時からずっとね・・・
気持ちは伝えてはいない。
今まではそれでいいと思ってたから。
・・・でも・・・。』
『でもっ?! でも、何っ?!
ついに、告白する気になったのっ?!』
タケの二の句をせっかちに急かす割りには、言わせない様な威圧感が溢れて
いるナチ。駄々を捏ねる子供のように手足をバタつかせては、人一倍顔を赤
く染めて息を荒げた。
リコはいまだタケに真っ直ぐ睨まれて、居心地が悪くなり目を逸らす。
何故そんな目で見るのか聞きたくて聞きたくない。なんだか重く息苦しくて
1秒でも早くこの話題を終わらせてほしかった。
『まぁ、チャンスがあれば・・・って事。』
タケが明るくおどけるように言った。
リコを見眇めていた視線をはずすと、大仰に照れた顔で笑い首の後ろをガシ
ガシと無意味に掻き毟って。
ナチは想う相手が誰かを聞きだそうと躍起になっていたが、タケは決して口
を割らなかった。
まるでリコだけがその場に取り残されたように、神妙な面持ちできゅっと口
をつぐみ、黙りこくっていた。
その時のリコの顔を、タケは一人、断りもなく入ったリコの部屋で思い出し
ていた。
手にとった写真立の中のリコは、隣に立つコースケにほんの少し肩が触れ合
っていて、ちょっとはにかんだ様に微笑んで写っている。その四角い光沢紙
に閉じ込められた引きで撮られたリコは、表情の詳細など分からない小さい
サイズなのにも関わらず、ほんのり頬がさくら色なのはすぐ分かる。
思わず手に力が入る。
指先が真っ白になり、手の甲の筋が浮き上がる程、タケは写真立を強く掴ん
でいた。
すると力が入り過ぎた為にミシっと少し軋む音が静黙なそこに響き、ハっと
我に返って指先を緩めた。そして何気なく写真立の裏側を見た、タケ。
そこには何かメモ用紙のような白い紙が挟まり、ほんの少し顔を出している。
小首を傾げるも何故か妙にそれが気になり、ゆっくりと引っ張り出してみた。
”リコちゃんが来てくれないと、
俺の壊滅的に下手くそなイラストで
園の壁が埋め尽くされちゃうよ~。
戻ってくるの待ってるからな!! ”
それが誰からのメモかはすぐに分かった。
たった4行の手書きのそれ。第三者の目には、これがそんなに大切に隠し持
つ価値があるものには到底思えない。
しかしリコはこんなノートの切れ端に書いたような薄汚いメモを、大切に大
切に誰にも見られないように仕舞っているのだ。
タケの心が一瞬にしてドス黒いものでいっぱいになった。
こんなくだらないメモを大切にするリコへの嫌悪。
そして、こんなメモをリコへ渡したコースケへの憤怒。
(ずっと前からリコの傍にいるのは僕なんだ・・・。)
気が付くとタケは、一心不乱にそのメモを破いていた。
縦に横にメモ紙の向きを変え破き、その手書きの文字がひとつも識別出来な
いほどに細かく細かく散り散りにした。
そして、それを握り潰すと乱暴にジーンズのポケットに残骸を押し込めた。
体が沸騰しそうに苛つく気持ちが何をどうしても止められなくなり、尚もリ
コの部屋の物色をする。
この部屋には、自分と一緒にいた中学時代の思い出より、今のコースケ達と
のそれの方が色濃い気がして、何もかも壊したくなる衝動に駆られた。
『あんな奴に絶対にリコを渡すもんか・・・。』
タケの歪んだ愛情が、どんどん形を成して膨らんでいくのだった。




