円子の家族②
いわゆるボーイミーツガール物の作品でございます。
夢見がちなヘタレ高校生・早良 汰郎と、可愛いケド手が付けられない程ジャジャ馬な小学生・祇園 円袴の心温まる物語……になる予定です(汗)
気ままに連載を続ける予定ですので、可能であれば最後までお付き合い頂ければと思います。
この作品を読んで人間が成長する事に、その快感にちょっとでも酔いしれて頂けたら幸いです。
登場人物
早良 汰郎:主人公。並外れて低い身体能力しかないのにボクサーを志す夢見がちで坊ちゃん気質な高校一年生。
祇園 円袴:小学生の女子。本来は元気で明るい女の子。だが様々な問題を抱えており苦悩が耐えない。美少女。
15分位してようやく父ちゃんがお風呂から上がってきた。
そして家族3人で食卓を囲んで両手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
待ちに待った夕食の時間が始まった。
祇園家の“いただきます”は『しゅーる』だ。
父ちゃんも母ちゃんもテンションが低いから、明るく言ったアタシだけ変に浮く。
もしアタシまでテンション低かったら、アタシはきっとこんなにおいしいご飯をあまり食べなくなるだろう。多分おかわりしないんじゃないかな。
いつもはお茶碗3杯くらいするんだけど。
普段から父ちゃんと母ちゃんはあんまり会話しない。今も二人ともそれぞれ自分の“すまーとふぉん”をいじりながら箸をすすめている。ここに一人娘のアタシがいるのに全く気にかけてもくれない。
それでも少し前まではアタシから一杯話しかけて、迷惑そうな顔をしてたけどちゃんと話を聞いてくれていた。
でも最近はアタシの方が話しかける話題がなくなってしまい、家族から会話が消えてしまった。
学校であんなことがあっては楽しく話せる話題なんてあるわけない。
それでも、今日は久しぶりに話を聞いて欲しくてたまらない出来事があった。
もちろん汰郎のことだ。
アタシよりずっと年上のすっごく弱っちい高校生。昨日あんなことがあったけど。今日また会ってビックリするくらい泣き虫なんだってわかったけど……すごく心配してくれて、クラスメート達に苛められていたアタシを助けてくれた。すごく嬉しくて、とてもあったかかった・・・・・・幸せな気分。
父ちゃんにも母ちゃんにも絶対に聞いて欲しかった。
「ねえ。今日ね、」
アタシが話を切り出しかけた時、父ちゃんが箸をバンと置いて、眉間にシワを寄せながら母ちゃんを見た。
「おい。この魚冷めてるぞ。温め直せ」
すごく乱暴な言い方に母ちゃんの機嫌があからさまに悪くなった。
「父ちゃん見て見て、この本!昨日買ったの」
アタシは場を和ませようと思って、昨日逸見書店で買った、その日道端に忘れてしまったけど汰郎が預かってくれていた本を父ちゃんに見せた。
その本を見た父ちゃんは少し頬が緩んだ。
「ほう。お前も段々わかってきたな……よし任せておけ、好きなものを買ってやる」
「ホント?サンキュー父ちゃん!」
父ちゃんは親指をグッと突き立てた。やった。機嫌がなおった!ところが、
「あなた、いずれ捕まるわよ。っていうか捕まればいいわ」
母ちゃんが意地の悪い一言を言い放つと、父ちゃんはテーブルを思いっきり叩いて大声で怒鳴った。
「なんだと!もういっぺん言ってみろ!」
それを受けた母ちゃんも待ってましたとばかりに怒りが爆発した。
「あなた何様なの?殿様気取りもいい加減にしてよ!『何がこの魚冷めてるぞ』よ。あなたが帰ってきた時には焼きたてだったのよ!少しは気を使いなさいよ!」
「こっちは家族を養う為に朝から晩までヘトヘトになるまで働いて帰ってくるんだ、感謝の気持ちを持って労えないで何が妻だ?お前の方こそいい加減にしろ!」
「私はいつだってアナタに一生懸命尽くしてきたわよ?いつまでもうだつの上がらない万年平社員のクセに笑わせないでよ!この無能!」
「なんだと~」
母ちゃんの容赦ない言葉に顔が真っ赤になった父ちゃんは母ちゃんを思いっきり平手打ちした。
「母ちゃん!」
ぶたれた母ちゃんだけど、少しも怯む様子もなく即座に父ちゃんをぶち返した。
「もう!やめろよ!二人ともー!!」
アタシは思いっきり叫んだ。
睨み合う二人。肩で息をしながらなんとも息苦しい緊張がしばらく続いた。
そして父ちゃんがボソッと呟いた。
「……離婚するか」
「え?なに?」
“リコン”?“リコン”って何?
言葉の意味が分からなくても、とても重大なことを決意した残念な決断だということ位は子供のアタシにだって分かる。
「……そうね」
父ちゃんの言葉に母ちゃんが同意して、アタシは身体が震えた。
「ねえ、“リコン”って何?」
アタシが聞くと父ちゃんが短く説明してくれた。
「俺達はお前の親じゃなくなるってことさ」
「ウソ……」
「ごめんなさい。私達がいなくなっても元気でね円子」
「ウソでしょ……ねえ、ウソって言ってよ」
アタシはまるで神様に祈るように言った。それでも、
「ホントよ」
それでも母ちゃんは表情を少しも変えず冷たく言い放った。
まるで飼っていたペットをあっさり捨ててしまうみたいに。
「もうやめてよ!」
アタシは思いっきり泣き叫んだ。
これはきっと悪い夢なんだ。
そう、いつも見る残酷な夢。その続きなんだと思った。
そして耳を塞いだまま家を飛び出した。
行くあてなんてないけど、とにかく目の前にあるもの全てが怖くなってしまって、ただただ逃げる様に走り続けた。




