円子の家族①
いわゆるボーイミーツガール物の作品でございます。
夢見がちなヘタレ高校生・早良 汰郎と、可愛いケド手が付けられない程ジャジャ馬な小学生・祇園 円袴の心温まる物語……になる予定です(汗)
定期的に連載予定ですので、可能であれば最後までお付き合いいただきたいと思います。
この作品を読んで人間が成長する事に、その快感にちょっとでも酔いしれて頂けたら幸いです。
「ただいま」
家に帰ったアタシは元気よく玄関のドアを開けた。
母ちゃんからは「おかえり」の返事はなく、リビングで夕飯を作っていた。
いつもと変わらない。これがアタシ達の日常の光景だ。
アタシの母ちゃん『祇園 有紗』は野菜を包丁で刻みながらアタシの方をチラッと見た。
普段と違ってアタシの雰囲気が明るいことにようやく気が付いたらしい。
「……早く手を洗ってきなさい」
それでも特に何があったのかは聞かれず、再び野菜を切り始めた。
「はーい」
アタシが洗面所に向かおうと母ちゃんの後ろを通り過ぎようとした時だ。
母ちゃんが突然アタシの腕を掴んだ。
急に掴まれたものだからビックリして母ちゃんを見上げると、今までに見たこともないような怖い顔をしていた。
「な、なに?どうしたの?」
アタシが聞いても母ちゃんは何も答えない。
アタシの体をジロジロ見て、まるで何かを探しているようだ。
しばらくそれが続いた後で母ちゃんはようやく口を開いた。
「……間違いない。『ファクト』が目覚めている」
「え?」
ファクト……?確かにそう聞こえた。『ファクト』って何?
アタシはそれが何かを聞こうとしたけど、すぐに口をつぐんでしまった。
だってさっきまでとても怖い顔をしていた母ちゃんが笑っていたから。
いつも無愛想が板につきすぎて、ナメらかに笑えず頬の筋肉がぎこちなくピクピクと痙攣していて、さっきもよりもさらに怖くなっていたのだ。
怖い顔から笑い顔になるってことは、ようするに母ちゃんは喜んでいたんだ。
でも何故喜んでいるんだろう?全然わからない!
アタシは急に気持ちが沈んでしまった。
昔はこうじゃなかったのに……。
ホントは父ちゃんも母ちゃんも、スッゴく明るくて笑いが絶えない楽しい家族だったの。今は正直にいって、家にいるのが苦痛で仕方なかった。
ずっと家出しようと考えていた。
思い返せば、父ちゃんと母ちゃんが変わったのは同じ時期だった気がする。
一体いつからだろう。
たしか、一年くらい前から?
もうあの楽しい日々は戻って来ないのかな。最近はそればかり考えてしまう。
ふと、家に帰る前のことを思い出す。
怒ったり、ドキドキしたり、フワフワして……何だかとっても忙しくて、楽しかった!だからあっという間に時間も流れた。あんな感覚はホントに久しぶりだったなあ。
トモダチと妹どっちがイイ?って……アタシ、なんであの時あんなこと言っちゃったんだろ?
思い出したら急に顔が熱くなってきた。
「どうしたの?」
急に母ちゃんが覗き込んだ。
いつのまにかいつもの無愛想な表情に戻っていた。
「な、なんでもない!手、洗ってくる!」
洗面所で手を洗ってリビングに戻ってきた時、玄関からドアの開く音がした。
父ちゃん『祇園 信近』が帰ってきたんだ。
「おかえり!父ちゃん」
「ああ」
父ちゃんもアタシの雰囲気が違うことに気が付いたみたい。
一瞬だけ驚いたような顔をすると、その後はすぐにいつものように険しい顔つきに戻ると、脱いだコートを抱えたまま寝室の方へ向かい、一人でスーツを脱いでクローゼットにしまう。昔は母ちゃんが父ちゃんの着替えを手伝ってたのに……。
「夕飯の支度が終わったわ」
母ちゃんがテーブルに夕ご飯の料理を並べ終えていた。
しかし父ちゃんはテーブルに並んだ夕ご飯をチラッとだけ見た後、
「先に風呂に入る」
と言って、そそくさと風呂場に消えてしまった。
となりで母ちゃんが無言のまま、布巾を強く握り締めた。
はあ。
娘のアタシでさえゲンナリするほどに父ちゃんと母ちゃんは仲が悪かった。ただなんというか……二人はむしろワザとそうしてる気がしていた。ハッキリとした理由は分からない。ただこの家の中でアタシだけが疎外感を感じている気がするのだ。
――結局、父ちゃんが風呂から上がるまで夕ご飯はお預けになった。
表情だけで母ちゃんの機嫌がどんどん悪くなってるのがわかる。
ぐうぅぅぅ。
静かなリビングに、アタシのお腹のムシが容赦なく鳴った。
もう!せっかく作った料理が冷めちゃうよ。
父ちゃん早く上がってこいよ。
お腹減ったぁーー!




