↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

金の目の男

カジがラビツの足の手当てを手伝っている頃、村のあちこちでも、意識を取り戻す者が出始めていた。


もっとも、目を覚ましたのは比較的若い者たちが中心だった。


年を重ねた者たちは、ひどい熱や身を起こすことさえままならない倦怠感に苦しみ、まだ予断を許さない状態にある。若い者たちに支えられながら、差し出された水をちび、ちび、と少しずつ飲む。それだけで息が切れ、肩を上下させる者もいた。


なかには、いまだ目を覚まさない者もいる。


カジの母親、ユカラもその一人だった。


「はぁ……っ、はぁ……」


熱のこもった呼吸が、浅く荒く繰り返される。落ち窪んだ目は閉じられたまま、呼びかけても反応がない。


「ユカラ……ッ」


そこへ、カジに先導され、一本の棒で身体を支えながら、這うようにしてラビツがやってきた。


「ひどい熱だ。カジ、もっと水を持ってきてくれ」


「うん」


カジはすぐに水瓶へ駆け寄った。


母親の苦しそうな様子に、じわりと涙が浮かぶ。それでも泣き出すことはせず、瓶の底に残ったわずかな水をすくい、両手で大事そうに持って戻ってきた。


ラビツがユカラの頭を支え、カジがそっと唇に水を含ませる。


けれど、先ほどまでは飲めていた水が、今は唇を濡らすだけだった。口の端からこぼれた水が、衣服へじわりと染み込んでいく。


「ユカラ、しっかりしろ。カジが目を覚ましたんだぞ」


薬師としての勘が、このままでは危険だと告げていた。


ラビツは骨ばった指の背で彼女の頬を軽く叩く。それでも瞼は開かない。肩を揺すっても、返ってくるのは熱に浮かされた荒い息だけだった。


村で一番美しいと評判だった、稲穂のような黄金色の髪が、枯れ葉のように乾いた音を立てて揺れる。


何日も食べず、休まず、自分自身も病に侵されていたというのに、ユカラは甕の中にわずかでも食べ物が残っていれば、すべてかき集めてカジに与え続けた。


もう助からないのだから、諦めたほうがいい。


口さがない者たちがそう言ったこともある。


そのたびにユカラは、落ち窪んだ目を鬼のようにぎらつかせ、相手を怒鳴りつけた。


あの気の強さには、ラビツも何度となく手を焼かされたものだ。


けれど、誰よりも強情で、誰よりも優しい女だった。


「こんなところでくたばるやつじゃないだろう……しっかりしろ」


声が震えそうになるのを、ラビツは歯を食いしばって堪えた。


新鮮な薬草を使ったところで、助けられるかどうかわからないほどの衰弱ぶりだ。ましてや、枯れ果てた薬草で作った解熱剤に、いったい何ができるというのだろう。


自嘲が胸の奥に沈んでいく。


ここで。

こんな形で。

幼馴染を失うのか。


薬師として、何もできない。


その無力感に沈みかけたとき、不意にカジの声がした。


「あ、おにいさん」


「起きたのか。身体は大丈夫か?」


ラビツが振り返ると、そこには見知らぬ若い男が立っていた。


なぜか、ユカラの亡き夫が着ていた服を身につけている。顔の下半分はマスクで隠れていたが、それでも整った顔立ちなのは隠せない


そして何より、目を引くのは金色の瞳だ


まるで磨き上げられた黄金のような色をした目が、カジを静かに見つめている。吸い込まれそうなほど美しい一方で、人間離れした印象も拭えない


男は駆け寄ってきたカジに抱きつかれ、目に見えて戸惑う様子を見せた


両手を宙に浮かせ、どうすればいいのかわからないとでもいうように、指先をわたわたと動かしている。


やがて、ぎこちない仕草でカジの背に手を回した。


そっと抱きしめ返す。


その動きは、幼い子供を慰めるにはどこか不慣れで、抱きしめるという行為そのものを、今まさに覚えたばかりのようだった。


「おかあさんが、ねつがひどいの」


カジが男の服を握りしめたまま訴える。


その声に促されるように、男の金色の目がラビツへ向けられた。

マミーッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。