金の目の男
カジがラビツの足の手当てを手伝っている頃、村のあちこちでも、意識を取り戻す者が出始めていた。
もっとも、目を覚ましたのは比較的若い者たちが中心だった。
年を重ねた者たちは、ひどい熱や身を起こすことさえままならない倦怠感に苦しみ、まだ予断を許さない状態にある。若い者たちに支えられながら、差し出された水をちび、ちび、と少しずつ飲む。それだけで息が切れ、肩を上下させる者もいた。
なかには、いまだ目を覚まさない者もいる。
カジの母親、ユカラもその一人だった。
「はぁ……っ、はぁ……」
熱のこもった呼吸が、浅く荒く繰り返される。落ち窪んだ目は閉じられたまま、呼びかけても反応がない。
「ユカラ……ッ」
そこへ、カジに先導され、一本の棒で身体を支えながら、這うようにしてラビツがやってきた。
「ひどい熱だ。カジ、もっと水を持ってきてくれ」
「うん」
カジはすぐに水瓶へ駆け寄った。
母親の苦しそうな様子に、じわりと涙が浮かぶ。それでも泣き出すことはせず、瓶の底に残ったわずかな水をすくい、両手で大事そうに持って戻ってきた。
ラビツがユカラの頭を支え、カジがそっと唇に水を含ませる。
けれど、先ほどまでは飲めていた水が、今は唇を濡らすだけだった。口の端からこぼれた水が、衣服へじわりと染み込んでいく。
「ユカラ、しっかりしろ。カジが目を覚ましたんだぞ」
薬師としての勘が、このままでは危険だと告げていた。
ラビツは骨ばった指の背で彼女の頬を軽く叩く。それでも瞼は開かない。肩を揺すっても、返ってくるのは熱に浮かされた荒い息だけだった。
村で一番美しいと評判だった、稲穂のような黄金色の髪が、枯れ葉のように乾いた音を立てて揺れる。
何日も食べず、休まず、自分自身も病に侵されていたというのに、ユカラは甕の中にわずかでも食べ物が残っていれば、すべてかき集めてカジに与え続けた。
もう助からないのだから、諦めたほうがいい。
口さがない者たちがそう言ったこともある。
そのたびにユカラは、落ち窪んだ目を鬼のようにぎらつかせ、相手を怒鳴りつけた。
あの気の強さには、ラビツも何度となく手を焼かされたものだ。
けれど、誰よりも強情で、誰よりも優しい女だった。
「こんなところでくたばるやつじゃないだろう……しっかりしろ」
声が震えそうになるのを、ラビツは歯を食いしばって堪えた。
新鮮な薬草を使ったところで、助けられるかどうかわからないほどの衰弱ぶりだ。ましてや、枯れ果てた薬草で作った解熱剤に、いったい何ができるというのだろう。
自嘲が胸の奥に沈んでいく。
ここで。
こんな形で。
幼馴染を失うのか。
薬師として、何もできない。
その無力感に沈みかけたとき、不意にカジの声がした。
「あ、おにいさん」
「起きたのか。身体は大丈夫か?」
ラビツが振り返ると、そこには見知らぬ若い男が立っていた。
なぜか、ユカラの亡き夫が着ていた服を身につけている。顔の下半分はマスクで隠れていたが、それでも整った顔立ちなのは隠せない
そして何より、目を引くのは金色の瞳だ
まるで磨き上げられた黄金のような色をした目が、カジを静かに見つめている。吸い込まれそうなほど美しい一方で、人間離れした印象も拭えない
男は駆け寄ってきたカジに抱きつかれ、目に見えて戸惑う様子を見せた
両手を宙に浮かせ、どうすればいいのかわからないとでもいうように、指先をわたわたと動かしている。
やがて、ぎこちない仕草でカジの背に手を回した。
そっと抱きしめ返す。
その動きは、幼い子供を慰めるにはどこか不慣れで、抱きしめるという行為そのものを、今まさに覚えたばかりのようだった。
「おかあさんが、ねつがひどいの」
カジが男の服を握りしめたまま訴える。
その声に促されるように、男の金色の目がラビツへ向けられた。
マミーッ




