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掃除完了

子供と女は、少し呻いただけで男のような悲鳴は上げなかった。


無理に引き剥がすと、魔蟲が抵抗してひどい痛みを与えるらしい。だが、こうして自分から噛みついてくる分には、それほど痛くないのだろう。


両腕に針で刺されるような細かな痛みがしばらく続いた。やがてその感覚も消え、二人の身体から魔蟲がいなくなる頃には、青黒い痣もすっかり消えていた。


やはり、ひどい風邪を引いて寝込んでいる人間にしか見えない。


女は骨と皮ばかりに痩せ細っていたが、子供にはまだ多少の丸みが残っていた。虫に喰われた影響が少なかったのか、それとも最後まで食べ物を与えられていたおかげなのか。


私は子供の小麦色の髪を撫で、にっこりと微笑んだ。


人間の子供だ。


手のひらから伝わる魔力は、ほとんど感じられない。この子を食べたところで、大した力にはならないだろう。


けれど、非力で柔らかい。軽いおやつとして食べるには、ちょうどよさそうだった。


ただ、肌に染みつくほど塗り込まれた薬草の臭いがひどい。今すぐ食べる気にはなれなかった。


一度、きちんと洗い落とさなければ。


そう考えて顔を上げると、棚から衣類がはみ出しているのが目に入った。


「ちょうどいいな。もらっておこう」


いい加減、ボロボロの布切れを身につけているのも限界だった。これはありがたい収穫だ。


棚の中身は女物と子供服がほとんどだったが、奥に押し込まれた衣類の中から男物を見つけた。取り出して着てみると、ウエストが少し緩い。幸いベルトもあったので、腰を締めて具合を確かめる。


生成りのズボンに、長袖のシャツ。どちらも少々くたびれてはいるが、今までの布切れに比べれば格段にましだった。


女のそばにマスクもあったので、ありがたく使わせてもらう。目だけはどうにも隠せないが、いざというときのために、今まで巻いていた布も捨てずに首へ掛けておいた。


身支度を終え、次の家へ向かおうとしたときだった。


背後から、服を引かれる感触があった。


振り返ると、子供がこちらを見上げていた。青い瞳には、まだ不安が残っている。


「おにいさん、だれ……たすけに、きてくれたの?」


それだけ話すのにも体力を使ったらしい。子供はすぐにケホケホと苦しそうに咳き込んだ。


私は近くの水差しを手に取り、口元へ運んでやった。


少し水を飲むと、子供は息を整えながら母親のほうへ目を向けた。


「おかあさんにも……」


弱々しい声だった。


自分が苦しいはずなのに、母親の心配をするらしい。


私は言われたとおり、女にも水を飲ませた。


「おかあさん、だいじょうぶ?」


不安そうに目を潤ませる子供に、私は頷いてみせた。


「生きてる。ただ、弱っているから休ませないと」


「よかっ…」


子供の目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。


乾ききった身体のどこに、これほどの水分が残っていたのだろう。


不思議に思いながら水差しを持たせ、自分と母親と共に飲むように言っておく。


それから部屋を出て、村中の家を回り、魔蟲の駆除を続ける。


生きている人間を見つければ、身体に取りついた虫を退治し、水を飲ませておく。どの家も似たような有様だった。


中には、元から別の病にやられてるところに虫にやられたのか、老いていたからか、すでに息絶えている人間もいた。


死体は腐り始めていたが、放っておくわけにもいかない。私は家の外に穴を掘り、そこへ埋めた。後からうっかり掘り返してしまわないように土をかぶせた場所には目印の木を立て、埋めた場所がわかるようにしておく。


どこからか風が吹いてきて、とんできた花が埋めた土の周りを彩る。近くに花畑でもあるのかもしれないと思いつつ村に引き返した


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