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第9話「王城にて」

夜明け前の王都を、私たちは足早に進んだ。

大聖堂での戦闘の痕跡が広まれば、教会側もすぐに動くはずだ。証拠の水晶を懐に抱え、リュカを先頭に王城への道を急ぐ。

「勇者リュカ・オルフェンだ。国王陛下に緊急の謁見を求める」

城門の衛兵に、リュカが名乗りを上げた。深夜にもかかわらず、勇者の名は効果を発揮した。すぐに城内へ取り次がれる。

「随分と話が早いですね」

「勇者という肩書きも、たまには役に立つ」

リュカが自嘲気味に笑った。

謁見の間に通されると、そこには既に着替えを済ませた国王――ガレオン三世が待っていた。歳の頃は五十半ば、鋭い眼光が印象的な人物だった。

「勇者リュカ。このような時間に、何事だ」

「陛下。至急、お耳に入れたいことがございます」

リュカが跪き、私に目配せする。私は一歩前に出た。

「初めまして、国王陛下。私は――」

「聞いている。追放された浄化士殿だろう。昨夜、大聖堂で聖女を”救った”という噂は、既に城内にも届いている」

ガレオン三世の目が、値踏みするように私を見た。

「して、この夜更けに何用か」

私は懐から水晶を取り出し、両手で捧げるように差し出した。

「これは、フィーネ様が受けさせられた禁術の残滓です。教会が独自に、聖女候補に対して危険な秘術を施していた証拠になります」

国王の側近が、水晶を受け取り、慎重に確認する。

「陛下。これは……確かに、尋常な魔力反応ではございません」

「詳しく話せ」

国王の声色が変わった。私は、これまでの経緯――フィーネの暴走、教会の関与、そして過去五年で七人の聖女候補が犠牲になっていたことを、順を追って説明した。

説明が進むにつれ、国王の表情が険しくなっていく。

「七人、だと……」

「はい。ミレイユという名の少女も、その一人です」

リュカが、静かに口を開いた。

「陛下。彼女は、私の幼馴染でした」

ガレオン三世は、しばらく目を閉じた。

「実を言うと、教会の”聖女制度”には、以前から不審な点があった。候補者の選定基準が不透明で、選ばれた者の追跡調査も一切公開されていない」

「陛下も、ご存じだったのですか」

「疑いは持っていた。だが、証拠がなかった。教会は、この国において強大な影響力を持つ。確証のない疑いだけで動けば、こちらが窮地に立たされる」

国王は、水晶を手に取り、じっと見つめた。

「だが、これがあれば話は変わる。……よくぞ、危険を冒してこれを持ち帰った」

「陛下、お願いがございます」

私は、深く頭を下げた。

「教会本部への正式な調査を、お願いしたいのです。この証拠と、フィーネ様の証言をもとに」

「フィーネ殿は、証言する意志があるのか」

「はい」

背後で、フィーネが小さく、しかしはっきりと頷いた。

「陛下……私は、教会に利用され、そして多くの犠牲を出す片棒を担がされました。もう、隠すつもりはありません」

ガレオン三世は、しばらく沈黙した後、重々しく頷いた。

「わかった。教会本部への正式調査を命じる。だが――」

国王の目が、鋭さを増した。

「教会は、簡単には屈しないだろう。この国の宗教的権威そのものが、教会にある。調査の名目だけでは、根本的な解決には至らないかもしれん」

「覚悟はしています」

「よかろう。……ところで」

国王の視線が、私の後方――謁見の間の隅で静かに佇むザガンに向けられた。

「その者は?」

謁見の間に、緊張が走った。

「陛下、彼は……」

「魔王ザガン、だな?」

国王の言葉に、周囲の兵士たちが一斉に色めき立った。剣に手をかける者、後ずさる者。

「陛下、下がってください!」

「待て」

国王は、片手を上げて兵士たちを制した。

「魔王が、なぜ人間の城にいる」

ザガンは、悠然と前に進み出た。

「彼女の付き添いだ、国王殿。それ以上でも以下でもない」

「魔王が、人間の”付き添い”とは。奇妙な話だ」

「奇妙な時代なのだろうな、これは」

ザガンの言葉に、国王は探るような目を向けた後、意外にも小さく笑った。

「面白い。魔王と監視者、勇者と元聖女。奇妙な組み合わせだが……この国の未来を左右する話し合いには、ふさわしい顔ぶれかもしれん」

謁見の間に、束の間の静寂が訪れた。だがそれは、これから始まる本格的な対立への、ほんの序章に過ぎなかった。

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