第10話「教会の反撃」
国王への謁見から三日後、王都に緊急事態が発生した。
「陛下、大変です!教会本部が、正式調査の受け入れを拒否しました!」
側近が息を切らして駆け込んできた。謁見の間には、私、リュカ、フィーネ、そして国王ガレオン三世が集まっていた。
「拒否、だと?理由は」
「"教会は世俗の権力から独立した存在であり、王家の調査権は及ばない"と……」
国王の眉間に、深い皺が刻まれた。
「随分と、都合のいい理屈だ」
「それだけではございません。教会は、"国王が魔王と結託し、教会を貶めようとしている"と、既に民衆への声明を出しています」
その言葉に、フィーネが息を呑んだ。
「そんな……先手を打たれた」
「予想はしていました」
私は静かに言った。
「教会は、私たちが証拠を集めていることに、レオンを通じて既に気づいていたはずです。ならば、こちらが動く前に世論を固めておくのは、当然の一手」
「では、どうする」
国王が問う。
「民衆の支持は、今どちらに向いているんですか」
側近が、苦い顔で答えた。
「王都内では、二分されています。大聖堂での"聖女様を救った"という話を信じる者もいれば、教会の"魔王と結託"という声明を信じる者もいる。特に……」
「特に?」
「教会は数百年にわたり、民衆の信仰の中心でした。一度や二度の疑惑では、その信頼は簡単には揺らぎません」
なるほど、と思う。教会が最も恐れていたのは、証拠そのものより、むしろ"民衆の疑い"だとザガンは言っていた。だが同時に、教会は数百年かけて築いた信頼という盾も持っている。
「私が、証言します」
フィーネが、意を決したように前に出た。
「元聖女である私が、直接民衆の前で真実を話せば……少なくとも、"魔王との結託"という嘘は否定できる」
「フィーネ、それは危険すぎる」リュカが止めに入る。「教会は、お前を"裏切り者"として消そうとするかもしれない」
「わかってる。それでも」
フィーネは、リュカを真っ直ぐ見つめた。
「私は、もう黙って利用されるだけの"聖女"じゃいたくない」
その言葉に、リュカは何も言えなくなった。
私は、国王に向き直った。
「陛下。王都広場での公開証言の場を、設けていただけますか」
「危険は承知の上か」
「はい。ですが、これ以上教会に世論を固められれば、真実そのものが埋もれてしまいます」
国王は、しばらく考え込んだ後、頷いた。
「よかろう。三日後、王都広場にて公開の場を設ける。護衛は、私が責任を持って手配しよう」
「ありがとうございます」
謁見の間を出た後、廊下でザガンが待っていた。
「聞いていたぞ。三日後、か」
「教会が、黙って見ているとは思えません」
「間違いなく、何か仕掛けてくるだろうな」
ザガンの表情が、珍しく真剣なものになった。
「シェアラ、一つ言っておく。教会の"影"は、レオン一人ではない。奴の逃走から考えて、教会本部には他にも同格、あるいはそれ以上の戦力が控えている可能性が高い」
「わかっています」
「三日間、俺も本格的に動く。……お前一人に、背負わせるつもりはない」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
「頼りにしてます」
「口だけは達者だと、前にも言ったな」
ザガンが小さく笑い、王城の廊下を歩き去っていく。
三日後の公開証言――それは、教会と真正面から対峙する、初めての機会になるはずだった。
だが、その裏で、教会がすでに次の一手を静かに進めていることを、私たちはまだ知らなかった。




