第7話「証言の準備」
廃教会での夜が明けた。
四人――私、ザガン、リュカ、フィーネは、今後の方針について話し合っていた。
「証言をするにしても、教会本部の目が届かない場所でなければ意味がない」
リュカが地図を広げながら言った。三年間、勇者として各地を巡ってきた経験が、こういう場面で役に立つ。
「一番安全なのは、王城だろうな」
ザガンが指を差したのは、王都の中心にある王城だった。
「教会と王家は、必ずしも一枚岩じゃない。特に現国王は、教会の”聖女制度”に懐疑的だという噂がある」
「本当ですか」
「監視記録にもある。国王は数年前から、教会の権力集中を警戒していた。ただ、確たる証拠がなく、動けずにいたようだ」
フィーネが、不安げに口を挟んだ。
「でも……本当に、王様が味方してくれるとは限らない。もし教会側についていたら」
「そのリスクはある」
私は頷いた。
「だからこそ、証拠を固める必要があります。フィーネの証言だけでなく、監視記録、そして――」
「そして?」
「実際に禁術の痕跡を、この目で確認しておきたい」
ザガンが片眉を上げた。
「大聖堂に戻るつもりか」
「ええ。フィーネが暴走した現場には、まだ呪詛の残滓が残っているはずです。それを回収できれば、動かぬ証拠になる」
「危険すぎる」リュカが即座に反対した。「大聖堂は今、教会の監視下にあるはずだ」
「だからこそ、価値がある」
私は静かに言った。
「危険を冒す価値のある証拠でなければ、枢機卿ヴァルドは絶対に認めない。生ぬるい証拠では、“個人の妄言”として握りつぶされて終わりです」
沈黙が流れた。フィーネが、意を決したように口を開いた。
「私も、行く」
「フィーネ?」
「私が暴走した場所だもの。私が一番、何が起きたか知ってる。それに――」
彼女は、震える手を握りしめた。
「これ以上、誰かに守られてばかりは、嫌」
その言葉に、リュカが小さく息を呑んだ。
「わかった。なら、俺も行く。これは……ミレイユのための戦いでもある」
ザガンが、面白そうに私たちを見渡した。
「随分と、人間らしい”覚悟”が揃ったものだな」
「あなたはどうするんですか」
私が聞くと、ザガンは肩をすくめた。
「俺は魔王だ。人間の街中を堂々と歩けば、それだけで大騒ぎになる。今回は、影から見守るとしよう」
「頼りにしてます」
「口だけは達者になったな、シェアラ」
ザガンが笑う。その笑みには、どこか安堵の色が混じっているように見えた。
夜半、私たちは大聖堂への潜入を開始した。
教会は表向き平静を装っていたが、警備は明らかに強化されていた。裏口には見張りの兵士が二人。私はフィーネに目配せし、静かに気配を殺した魔力で二人を眠らせる。
「……相変わらず、規格外ね」
フィーネが小声で呟いた。
「三年間隠していた分、反動が大きいんです」
大聖堂の奥、フィーネが暴走した儀式の間に足を踏み入れると、空気が明らかに違った。ひび割れた床の隙間から、まだ微かに黒い瘴気が滲み出ている。
「これが……」
「呪詛の残滓です。回収します」
私は魔力を練り、瘴気を専用の水晶に封じ込めていく。作業は慎重を要した。少しでも力加減を誤れば、瘴気が再び暴走しかねない。
「セレス、後ろ!」
リュカの声に振り返ると、儀式の間の奥から、白い法衣の人影が現れた。
「まさか本当に、戻ってくるとはね」
そこに立っていたのは、ヴァルドではなく――教会の紋章を纏った、見知らぬ若い聖職者だった。だが、その気配は明らかに人間のものではなかった。
「あなたは……」
「自己紹介が遅れました。私、教会の”影”を務めております、レオンと申します」
穏やかな笑みの奥に、隠しきれない敵意が滲んでいた。
「監視者殿がここに現れることは、想定内でした。証拠隠滅と、あなた方の排除――一石二鳥というわけです」
儀式の間に、冷たい緊張が満ちていく。




