最終話「詰みを作る側の、それから」
聖都カテドラルでの決着から、一ヶ月が経った。
王都は、すっかり落ち着きを取り戻していた。旧教会は正式に解体され、新たな"信仰院"としての一歩を踏み出している。ヴァルドは初代院長として、フィーネとリュカもその運営に深く関わっていた。
私は、王都郊外――かつて追放された時に通った、あの街道に立っていた。
「懐かしい場所だな」
隣には、ザガンがいた。
「ここで、あなたに出会いました」
「正確には、"再会"だがな。お前は忘れていただけで」
私は、小さく笑った。三年前、いや、あれからまだ一ヶ月しか経っていないのに、まるで別人のように穏やかな気持ちで、あの日のことを振り返れる。
「シェアラ、これからどうするか、決めたか?」
ザガンの問いに、私は頷いた。
「はい。信仰院の顧問として、時々力を貸すことにしました。フィーネとリュカが立て直そうとしているものを、見届けたいので」
「それは、いい選択だ」
「でも、それだけじゃありません」
私は、ザガンを見つめた。
「魔族の国にも、たまに顔を出そうと思っています。……あなたが、"時々こちらに顔を出す"と言ったなら、私も同じくらい、そちらに行っても構いませんよね」
ザガンは、一瞬驚いたような顔をした後、珍しく穏やかに笑った。
「もちろんだ。……お前のための部屋くらい、いつでも用意しておこう」
「ありがとうございます」
風が、二人の間を吹き抜けていく。あの日、追放された道で感じた孤独とは、まるで違う温かさがあった。
数日後、王都の広場では、小さな祝祭が開かれていた。信仰院の新設を祝う、民衆による自発的な催しだった。
「セレスさん!こっち!」
フィーネが、屋台の並ぶ広場から手を振っている。その隣には、リュカの姿もあった。
「賑やかですね」
「新しい時代の始まりだもの。……これも、セレスさんのおかげ」
フィーネが、まっすぐに私を見た。
「三年前、私はあなたを陥れた。それでも、あなたは私を救ってくれた。その恩は、一生忘れない」
「もう、過去のことです」
「ううん、忘れない。……だから、これからは、私も誰かのために、そういう存在になりたい」
フィーネの言葉に、リュカが頷いた。
「俺も、同じ気持ちだ。ミレイユの死を、無駄にしないために」
二人の決意に、私は静かに微笑んだ。
「二人とも、いい顔してますね」
「セレスにだけは言われたくないな」
リュカが、からかうように言う。振り返ると、少し離れた場所で、ザガンが屋台の食べ物を珍しそうに眺めていた。
「行ってあげたら?」
フィーネに背中を押され、私はザガンの元へ歩み寄った。
「何か、気になるものでも?」
「人間の食い物というのは、実に奇妙な匂いがするものだな」
「食べてみますか?」
「……付き合ってやろう」
そう言いながら、ザガンは、どこか楽しそうだった。
夕暮れの広場に、笑い声と、賑やかな祭りの音が響いていた。追放から始まった物語は、断罪、暴走、二百年の因縁、そして新しい始まりを経て、ここに一つの結末を迎えた。
浄化士セレスとして生きた三年間。監視者シェアラとしての本当の自分。そのどちらも、もう偽りではない。
かつて"弱者ジョブ"と呼ばれ、追放された私は、いつしか、多くの人の運命を"詰み"から救う側になっていた。
そしてこれからも――この温かい場所で、大切な人たちと共に、新しい物語を紡いでいく。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
初作品「追放された弱者ジョブ、実は"詰み"を作る側の職業でした」、全20話、駆け足でしたが完結まで書き切ることができました。
最初にこの物語を書き始めたとき、「追放される側が、実は誰よりも力を持っていた」というシンプルな逆転から始めました。ですが書き進めるうちに、セレス(シェアラ)だけでなく、フィーネやリュカ、そしてヴァルドや教皇シリウスまで、それぞれが「何かを隠しながら生きていた」人物になっていったのが、書いていて自分でも印象的でした。
断罪する側にも、断罪される側にも、それぞれの事情がある。そんな視点を、この物語には少し込めたつもりです。
セレスとザガンの関係、フィーネとリュカが選んだこれからの道――彼らのその後を、もし機会があれば番外編という形でまたお見せできればと思っています。
最後に、毎日更新にも関わらず読み続けてくださった皆様、コメントやブックマークをくださった皆様に、改めて感謝申し上げます。
また次の物語で、お会いできますように。




