↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/20

第18話「浄化と、二百年の解放」

暴走するシリウスに向かって、私は迷わず駆けた。

「シェアラ、待て!」

ザガンの制止を振り切り、私は崩れゆく融合体――かつて教皇と呼ばれた存在に、正面から向き合った。

「離れろ、監視者……! 今の私に触れれば、お前も喰われるぞ……!」

シリウスの声は、もはや二つの声が重なったように歪んでいた。人間だった頃の理性と、融合した"上位存在"の力が、せめぎ合っているのがわかる。

「知っています。それでも」

私は両手をかざし、フィーネを救った時と同じ要領で、浄化の光を練り上げた。だが、規模も濃度も、比較にならないほど巨大な力だ。

「シェアラ、無理はするな!俺も加勢する!」

「いえ」

私は、静かに首を振った。

「ザガン様の力は、"打ち払う"力です。今、必要なのは"解きほぐす"力。これは、私にしかできません」

「だが……!」

「信じてください。三年間、あなたの下で鍛えられた力です」

ザガンは、一瞬言葉に詰まった後、深く息を吐いた。

「……わかった。俺は、お前の力が届くよう、奴の動きを抑える」

「お願いします」

ザガンが前に出て、暴走するシリウスの闇の奔流を、正面から受け止め始めた。その隙に、私はシリウスの中心――融合の核となっている部分に、意識を集中させる。

「見えた」

二百年かけて積み重なった、二つの存在の"歪み"。人間だった頃の魂と、無理やり融合させられた上位存在の力。それは、糸のようにもつれ合いながらも、決して溶け合ってはいなかった。

「これを、解けば」

私は、浄化の光を、その"もつれ"に直接注ぎ込んだ。

「ぐああああああ……!!」

シリウスの絶叫が、儀式場に響き渡った。二百年分の力が、少しずつ、しかし確実にほどけていく。

「や、やめろ……! 私は、まだ……!」

「あなたは、もう十分すぎるほど、人を傷つけました」

私は、光を注ぎ込みながら、静かに言葉を続けた。

「二百年前、あなたは"失敗作"として生まれた。それは、あなたのせいじゃない。……でも、その後の二十年、罪のない少女たちを実験の道具にしたのは、あなた自身の選択です」

「私は、ただ……完全な存在になりたかっただけだ……!」

「その願いのために、何人が犠牲になったか、数えたことはありますか」

沈黙が、一瞬だけ流れた。歪んだ二つの声のうち、人間の方の声が、かすかに震えた。

「……ミレイユ、フィーネ、そして……」

「もう、止めましょう」

浄化の光が、最後のもつれをほどいていく。シリウスを包んでいた黒い法衣が、崩れるように消え去り、その内側から、一人の痩せ細った老人の姿が現れた。二百年分の重みを、一気に背負ったかのような姿だった。

「……終わった、のか」

老人となったシリウスが、力なく膝をついた。

「はい」

「私は……裁かれるべきだろうな。二十人以上の……いや、それ以上の犠牲者に対して」

「その通りです。ですが、それは私たちが決めることではありません。国王陛下の元で、正式な裁きを受けてもらいます」

シリウスは、静かに頷いた。かつての教皇の面影は、もうどこにもなかった。

崩れかけていた儀式場に、静けさが戻ってきた。ザガンが、私の隣に歩み寄ってくる。

「……やったな」

「はい。……でも、まだ終わっていません」

「わかっている。裁きと、後始末が残っている」

そう言いながらも、ザガンの表情には、確かな安堵が浮かんでいた。

儀式場の外から、フィーネとリュカ、そしてヴァルドが駆け込んでくる。

「セレス!無事なのか!?」

「ええ、大丈夫です」

私は、崩れ落ちた儀式場の中で、静かに息を吐いた。

二百年続いた歪んだ野望が、ここに終わりを告げた。だが、この事件がもたらした余波は、これからの世界に、まだ大きな影響を残すことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。