第14話「崩れ始める権威」
広場での襲撃事件は、瞬く間に王都中に広まった。
「教会が、証言者を武力で消そうとした」――その一報は、噂という曖昧な形ではなく、千人以上の目撃者を伴う"事実"として王都を駆け巡った。
王城の一室で、私たちは事後処理に追われていた。
「陛下、各地から報告が届いております。教会への信頼が、急速に揺らいでいるとのことです」
側近が、書類の束を手に報告する。
「地方の教会施設でも、寄進を控える動きが出始めているとか」
国王ガレオン三世は、静かに頷いた。
「当然の反応だろう。数百年築いた信頼も、一度の暴挙で崩れることがある。今回のことは、教会にとって致命的な失点だ」
「教会本部からの反応は?」
私が尋ねると、側近は苦い顔をした。
「それが……未だに、公式声明を出していません。完全に沈黙を貫いています」
「沈黙、か」
ザガンが呟いた。
「悪あがきをするか、それとも――次の一手を、じっくり練っているか」
「次の一手、ですか」
「教会ほどの組織が、これだけの失点を喫して、何もせずに引き下がるとは思えん。奴らには、まだ切り札があるはずだ」
その言葉に、フィーネが不安げな顔をした。
「切り札……?」
「例えば、大司教、あるいは教皇そのものが直接動く、とかな」
謁見の間に、緊張が走った。
「教皇……」
リュカが、低く呟いた。
「教皇シリウスは、この国の宗教的権威の頂点だ。滅多に表舞台には出てこないと聞くが」
「だからこそ、出てきた時の威力は計り知れない」ザガンが続けた。「教皇自らが"監視者は魔王軍の刺客であり、全ての証言は捏造だ"とでも宣言すれば、民衆の心はまた揺らぐ」
「そんな……」
フィーネの表情が曇る。私は、彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫です。事実は事実です。どれだけ言葉で塗り固めようとしても、七人の犠牲者の記録と、今日の襲撃の目撃者は消えません」
「セレス……」
「それに」
私は、国王に向き直った。
「陛下。教会本部への正式な強制調査は、可能でしょうか」
ガレオン三世は、しばらく考え込んだ後、重々しく口を開いた。
「今までは、教会の"独立性"を理由に、強制力を持った調査には踏み込めなかった。だが、今日の襲撃を受けて――状況は変わった」
「と、いいますと」
「王都内で、武装した集団が民衆に危害を加えようとした。これは、教会の"独立性"云々以前に、単純な治安維持の問題だ。この名目であれば、王家の権限で強制調査に踏み込める」
側近が、目を見開いた。
「陛下、それは……教会との全面対立を意味します」
「今更、後には引けまい」
国王の目に、確かな決意が宿っていた。
「三日後、王家直属の調査団を、教会本部へ派遣する。監視者殿、勇者殿、元聖女殿――お三方には、その調査団に同行していただきたい」
「もちろんです」
私は即答した。リュカとフィーネも、揃って頷いた。
「教会本部には、おそらく相応の抵抗がある。……それに、教皇シリウスが直接出てくる可能性も高い」
ザガンが、私の隣で低く言った。
「これが、最後の戦いになるかもしれんな」
窓の外、王都の空に、薄い雲がゆっくりと流れていく。教会という長年続いた権威の崩壊が、静かに、しかし確実に始まっていた。




