第13話「王都広場の激突」
証言の日、王都広場には朝から人だかりができていた。
国王の名のもとに設けられた特設の壇上に、私、リュカ、フィーネが並んで立つ。集まった民衆は千人を超えていた。
「静粛に」
国王ガレオン三世自らが、壇上で声を上げた。
「本日は、教会にまつわる重大な疑惑について、関係者から証言を得る場である。すべての民は、静かに耳を傾けてほしい」
ざわめきが、次第に静まっていく。
リュカが、一歩前に出た。
「私は勇者リュカ・オルフェンだ。教会が流布した"国王が魔王と結託している"という噂は、事実ではない。真実は、これから話される証言の中にある」
一部の民衆から、疑わしげな声が上がる。だが、勇者本人の言葉には、それなりの重みがあった。
「次に、元聖女フィーネ様より、証言をいただく」
フィーネが、震える足取りで前に出た。深呼吸をして、口を開く。
「私は……教会に、禁じられた秘術を受けさせられました。"聖女としての力を底上げする"と言われて。でも、それは呪詛でした」
広場が、静まり返った。
「私は暴走し、多くの人を傷つけかけました。それを止めてくれたのが……かつて私が陥れた、浄化士セレスさんです」
フィーネの目に涙が浮かぶ。
「彼女は、監視者として、教会が過去五年で七人の聖女候補を、同じように犠牲にしてきたことを知っていました。ミレイユという少女も、その一人です」
どよめきが広がる。「ミレイユ」という名前に、何人かの民衆が反応したのが見えた。
その時だった。
広場を囲む建物の屋根から、複数の人影が一斉に飛び降りた。
「――来たか」
私は、瞬時に前へ出た。
「民衆を守れ!」
黒いローブの集団が、広場に降り立つ。その数、およそ二十。中心には、レオンの姿があった。
「証言、ご苦労なことだ。だが――ここで、終わりにしてもらう」
「レオン!」
「教会の名において、"異端の証言"を封じさせてもらう。抵抗するなら、容赦はしない」
悲鳴が上がり、民衆が逃げ惑う。国王の護衛兵が応戦するが、"影"たちの動きは人間離れしていた。
「リュカ、フィーネを!」
「わかっている!」
リュカが剣を抜き、フィーネを庇うように前に出る。
私は、レオンに向き直った。
「民衆の前で、正体を晒すつもりですか」
「構わんさ。証言者さえ消えれば、後はどうとでも言い繕える。"魔王軍の襲撃だった"とでも言えばいい」
レオンの合図で、"影"たちが一斉に襲いかかってきた。私は淡い光を纏い、迎え撃つ。
一人、二人と斬り伏せていくが、数の差は歴然だった。息をつく暇もない。
「くっ……」
一瞬の隙を突かれ、背後から一撃を受けた。かろうじて致命傷は避けたが、体勢が崩れる。
「セレス!」
フィーネが叫んだ、その時。
広場全体を覆うように、巨大な魔力の波動が広がった。
「――待たせたな」
空から舞い降りてきたのは、ザガンだった。漆黒のマントをはためかせ、その圧倒的な存在感だけで、"影"たちの動きが一瞬止まる。
「魔王……!?」
レオンの顔から、初めて余裕が消えた。
「な、なぜここに……結界を張っていたはずでは」
「お前らの"歓迎"とやらが、少々騒がしすぎてな。隠れている必要もなくなった」
ザガンは、私の隣に降り立った。
「大丈夫か、シェアラ」
「……派手に登場しましたね」
「派手にやらねば、示しがつかないだろう。教会の"影"風情が、俺の大切な者に手を出したんだ」
その一言に、周囲がざわついた。魔王が「大切な者」と口にしたことに、レオンだけでなく民衆までもが動揺している。
「これで、はっきりしただろう」
ザガンは、集まった民衆に向かって、あえて声を張り上げた。
「魔王軍が国王と結託している、というのは真っ赤な嘘だ。俺がここにいるのは、教会の卑劣な襲撃から、一人の人間を――いや、一人の"元部下"を守るためだ」
嘘は言っていない。だが、絶妙に事実をぼかした物言いに、私は思わず苦笑した。
「レオン。お前たちの負けだ」
私は、体勢を立て直し、再びレオンに向き直った。
「魔王が加勢に来た以上、お前たちに勝ち目はない。投降するなら、今のうちです」
レオンは、歯を食いしばりながら周囲を見回した。既に"影"の半数以上が、ザガンとリュカによって無力化されている。
「……くそっ、退くぞ!」
レオンの号令で、生き残った"影"たちが一斉に転移の光に包まれ、姿を消していく。
広場に、静寂が戻った。民衆は、呆然とその光景を見つめている。
「終わった、のか……」
フィーネが、へたり込むように座り込んだ。
「いえ」
私は、広場を埋め尽くす民衆を見渡した。
「これは、始まりに過ぎません。教会本部は、まだ健在です」
だが、この日の襲撃は、皮肉にも教会にとって最悪の一手となった。証言を封じるはずが、逆に"教会が武力で証言者を消そうとした"という、動かぬ事実を作ってしまったのだから。
国王ガレオン三世が、静かに壇上から告げた。
「見ての通りだ。教会の"潔白"の主張は、この襲撃をもって崩れ去った」
民衆の間に広がったのは、もはや疑いではなく――確信だった。




