第12話「王都広場、決戦前夜」
証言の日の前夜、私は一人、王城の露台に立っていた。
見下ろす王都は、静かな夜の中にある。明日、この街の広場で、これまでの全てに決着をつける。
「眠れないのか」
背後から、ザガンの声がした。
「少し、考え事をしていました」
「監視者らしくない台詞だな。任務中は、常に冷静沈着だったはずだが」
「今は、任務じゃありませんから」
私は、夜空を見上げた。
「三年間、人間として生きてきました。演技のつもりだったのに、いつの間にか、本当に大切なものができていた」
「フィーネやリュカのことか」
「彼らだけじゃありません」
ザガンの方を、少しだけ見た。
「あなたのことも」
ザガンが、珍しく虚をつかれたような顔をした。
「……俺は魔王だぞ」
「知っています」
「人間を守るために戦う、というのは、本来お前の――いや、監視者の役割にはなかったはずだ」
「役割だから、じゃない。私が、そうしたいと思うから」
夜風が、二人の間を通り抜けていった。
「明日、教会は本気で潰しにくるでしょう」
「そうだろうな。二十人以上の"影"が動いている。おそらく、レオンを含めた精鋭部隊だ」
「勝算は」
「五分五分、といったところだ」ザガンは正直に言った。「お前の力は本物だが、多勢に無勢だ。それに、リュカやフィーネを守りながら戦うとなると、さらに分が悪くなる」
「それでも、やるしかありません」
「わかっている。だからこそ、俺も本気で動くつもりだ」
ザガンは、夜空を見上げながら続けた。
「明日、俺は結界に紛れて戦う。表立って"魔王が加勢した"とバレれば、教会の思う壺だからな。だが――お前が本当に危険な時は、その限りではない」
「ザガン様」
「なんだ」
「ありがとうございます」
ザガンは、少しだけ困ったような顔をした。
「礼を言われる筋合いはない。お前は、俺の……大切な部下だ」
一瞬の間があった。部下、という言葉の後に、何か別の言葉を飲み込んだような、そんな間だった。
「休め、シェアラ。明日は、長い一日になる」
ザガンが、静かに露台を後にした。
同じ頃、城内の別室では、リュカとフィーネが向き合っていた。
「明日、怖くないか」
リュカが尋ねると、フィーネは小さく首を振った。
「怖い。でも……もう逃げたくない」
「無理はするな。危なくなったら、俺が守る」
「リュカ」
フィーネが、リュカを見つめた。
「三年前、私があなたのことを利用して、セレスを陥れた時……あなたは、本当に何も知らなかったの?」
リュカは、しばらく沈黙した後、静かに答えた。
「薄々、感づいてはいた。でも、パーティの和を優先して、見て見ぬふりをした。……卑怯者だった」
「私も、同じくらい卑怯だった」
フィーネの目に、涙が浮かんだ。
「セレスに救われて、初めて気づいた。本当の強さって、力の強さじゃなくて……自分の過ちを認めて、変わろうとする勇気のことなんだって」
「フィーネ」
「明日、私、ちゃんと証言する。自分の弱さも、罪も、全部話す。それが――セレスへの、せめてもの償いだから」
リュカは、フィーネの手をそっと握った。
「一人じゃない。俺も、隣にいる」
窓の外、王都の夜空に、静かな月が浮かんでいた。それぞれの想いを抱えながら、四人は、来るべき決戦の日を待っていた。




