修行編~サラ&真人~
馬車に揺られること数日。王都を出てからの平原は徐々に、深く豊かな森に姿を変えていった。途中、真人がこの世界で最初に立ち寄った小さな村にも立ち寄ったが、旅路を急ぐ二人はすぐにそこを後にした。
王都から七日目の朝、馬車が街道と密林の境界に差し掛かったところで、サラが「ここで降ろして」と真人に告げた。
真人が不安げな顔でサラを見る。「ここか?」
サラは、迷いのない瞳で密林の奥を見つめていた。「ええ。私の【直感】が告げているわ。この密林の先に、鳥人族の里が待ち受けているわ。」
荷物を背負い、馬車をおりるサラに真人は声をかけた。
「気をつけてな。」「あなたもね。」
二人は短い会話の後、サラは覚悟を決めたように森へと足を踏み入れた。
~サラ~
サラは一歩、また一歩と密林の奥へ進んだ。彼女も故郷の森で育ったが、鳥人族の森は、故郷の森とはまた違う、独特の雰囲気を漂わせていた。木々はより生い茂り、上を見上げてもほとんど空が見えない程だった。それでもサラは迷うことなく森の奥へと突き進んでいった。
数分歩いていた、その瞬間、サラの耳が何かを感じ取った。サラはその【直感】を信じ、咄嗟に後ろへ一歩下がった。次の瞬間、サラの鼻先を一本の矢が掠めた。その矢は、狐人族の動体視力を持つサラでさえ、捉えるのがやっとの速さだった。それでもサラは冷静に対応を返した。
サラは素早く弓を構え、事前に用意しておいた、矢先に手紙を括り付けた音矢を、遙か上空に向かって放った。矢は真っ直ぐに空へと昇っていった。
直後、上空で旋回していた一人の鳥人族が、その矢を巧みに空中でキャッチした。彼は矢先の手紙を一読すると、ゆっくりと、しかし警戒を解かずに弓を構えたままサラの前へと降下した。その眼は熟練の狩人の目であった。
サラは弓を構えた鳥人族の顔を真っ直ぐに見据え、丁寧に語りかけた。
「突然の訪問、申し訳ない。私の名はコノハ。ここより北西に位置する狐人族の里出身の狩人だ。私は己の狩りの腕を磨きあげるため、特に弓の扱いと風の扱いに長けた貴殿ら鳥人族を尋ねたさせていただいた次第だ。どうか私にご指導頂けないだろうか。」
願い乞うのではなく、あくまで対等な立場で、しかし最大の敬意をもってサラは話した。すると、目の前の鳥人はニヤリと笑った。その表情には好奇心が浮かんでいた。
「礼儀がある奴は嫌いじゃない。先程はいきなり撃って、こちらもすまなかった。俺はフウガ。里に案内する。着いてきな!」
そう言うとフウガは、大きな翼を振り、ものすごい速度で飛び立った。
フウガは空を悠々と飛び、サラは木々の間を縫うように、しなやかに駆け抜けた。すると段々と建造物が見え隠れしてきた。
開けた空間に出るとそこには、息をのむような光景が広がっていた。木と木を繋ぐようにいくつもの吊り橋が架けられ、その上には精巧なツリーハウスが所狭しと立ち並んでいた。まさに、天空の里。鳥人族の独特の文化が、そこには息づいていたのだ。
その中でも一番大きい家でフウガは止まった。
「着いたぜ。ここは里長の家だ。さっきの内容、もう一回里長に言って許可貰うこったな。じゃ。」
フウガはそう言うと、また森の方へと風のように颯爽と飛び去って行った。
サラは息を整えてから、里長の家の扉を叩いた。
「失礼する。」
~真人~
真人はサラが密林に去っていったのを見届けてから、馬車を再び進めた。その夜、真人は久しぶりに一人で夜を越した。これまでずっと隣に誰かいたことを、この世界に来てまだ三十日も経っていないのに、沢山の仲間に囲まれていたことを、改めて実感した。静寂の中、彼は自身の使命と、これから始まる修行について深く思考を巡らせていた。
翌日のお昼頃、真人は大きな港町ラヴィンに到着した。活気に満ちた町並みには、獣人種と共に多くの妖精種、特にエルフの姿が見受けられた。ラヴィンよりさらに東に浮かぶ島々がエルフの里であると認識していた真人は、町ゆくエルフたちの開放的な雰囲気に驚いていた。
真人は町のエルフに声をかけ、状況を確認した。
『対象:生物 /種族:妖精種、状態:高揚』
『推奨行動:情報収集』
「すみません。ここはラヴィンですよね?」
「ええ、そうですよ!」女性のエルフが、優しく微笑んで答えた。
「エルフの里はもう少し東ですよね?」
「エルスフィア?ええ、そうよ?」町のエルフは、真人をジロジロと見ながら、少し困惑したような顔で答えた。
「エルフって、どこか鎖国的で、あまり他種族と関わらない印象だったのですが……」真人が正直な疑問を口にする。
町のエルフは何か腑に落ちたように語った。
「ああ!ちょっと前まではそうだったよ。でも、ここ数年で一気に交流が増えたんだ。火が苦手な私たちには作れない品々を求めて、こうしてラヴィンに出てくるようになったの。今はエルスフィアと定期便もあるしね!でも、知らなかったの?あなたもエルフよね?」
真人は、エルフについての自身の情報が、確かに曖昧であることを痛感した。神々の使徒として転生した自分は、エルフとしての常識がまだ不足しているのだろう。
「えぇ、少し旅をしていまして……。ありがとうございました。」
真人は町のエルフに礼を言い、早速定期便の船へと乗り込んだ。
船が進むにつれ、周囲の景色は一変した。眼前に迫る島々からは青々とした木々が生え、その全てが、生命力で満ち溢れていた。
島に降りた真人は更に驚いた。
そこにはまるで世界の柱のように太く大きい巨木がそびえ立っていた。その木は真人が地球を含め、今まで見たどんな木よりも巨大だった。エルフの里はその根っこに囲まれる形で存在していた。里の建物はどれも自然な木の温もりを感じるものだった。中でも、大木の切り株をそのまま使ったような、里の中心に位置する大きな建物が堂々たる印象を与えていた。その建物の扉の前には、二人の護衛が静かに警備をしていた。真人は護衛の一人に話しかけた。
「失礼。私は今日初めてこの里に来たのだが、里長などに挨拶をした方が良いのだろうか?」
護衛は真人の顔をジロジロと見ながら、明らかに不審そうな視線を向けてきた。
「挨拶?エルフならいらんいらん。それより、この里に初めて来たってあんた、どこで生まれたんだ?ダークエルフには見えないし、ここ以外でエルフが生まれたなんて話聞いたことねーぞ?」
真人は返事に困りながらも、咄嗟に言葉を紡いだ。
「生まれはここだが、すぐに旅に出たって事だ。故郷の記憶は朧気でな……。と、とにかく、挨拶は不要なのだな。答えてくれてありがとう。」
真人はすぐにその場を離れたが、護衛の不審がる目線は真人が見えなくなるまで続いた。
真人は里を見物しながら、周囲に【鑑定】をかけた。
『対象:空間 /名称:エルスフィア、状態:良好』
その時、キラッと光る何かを感じ、真人は里の中でも北に位置し、一際目を引く建物へと足を運んだ。その建物の天井は全面がガラスのように透き通っており、陽光が内部に降り注いでいるのが外からでもわかった。壁はこの里では珍しく、石製の壁が使われていた。
『対象:施設 /名称:エルスフィア樹書館』
『推奨行動:情報収集、文書研究』
新しい知識を求め、真人は迷わずその樹書館へと入っていった。
樹書館の内部は、天井が全面ガラスなのもありとても明るかった。そして王都の魔研会に引けを取らないほどの蔵書量を誇っていた。しかし、魔研会以上に巻物が多いのが特徴だ。古びた書物や精巧な地図、そして見たことのない魔法陣の図が所狭しと並べられていた。真ん中には大きな長机がいくつか置かれ、多くのエルフが黙々と研究に没頭していた。
真人もまた、ここに並ぶ知識の全てを吸収しようと心に決め、最初の一冊に手を伸ばした。
【本日の残業報告】(報告者:サラ)
・馬車旅終了 → 密林にて下車
・【直感】作動 → 矢を回避
・鳥人族の狩人フウガさんと接触
・交渉完了 → 天空の里にご案内
・文化レベル高めなツリーハウス群を発見
・里長と面会予定
【本日の残業報告】(報告者:真人)
・サラ修行開始 → ソロムーブ発動
・単独行動により、仲間の存在を再認識
・港町ラヴィンへ到着
・NPCエルフより情報取得
・エルスフィアへの定期船便を確認 → 乗船
・巨木および自然建築群にログイン
・樹書館:【鑑定】により有用と判断
・文献収集および研究を開始
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