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修行編 ~アレックス&リー~

エヴァに見送られ、船旅に出たアレックスとリー。同行するのは航海士のティシアだ。彼女は新大陸生まれで、ジュールの紹介で実家に帰るついでに二人を送っていくことになっていた。


広い甲板で、アレックスがそわそわと落ち着かない様子でティシアに声をかけた。

「ねー、ティシア。まだ?」

ティシアは、慣れた様子で船を操りながら、眉を下げて答えた。

「ア、アレックスさん。あと三日ですから。もう少々辛抱をお願いします。」

翌日。 リーは甲板の隅で、微動だにせず瞑想にふけっていた。アレックスはそんなリーに声をかける。

「なぁリー!おいリーってば。………やれやれ、誰もお話してくれねぇや……。」

アレックスは退屈を持て余していたが、航海問題なくは続いた。途中、魔物の襲撃は多少あったものの、問題になるほどではなかった。無事に十一日の航海を経て、船は遂に新大陸を視界に捕える程となった。


水平線に見えてきた新大陸は、三階建て程の大きめな建物が多く建ち並び、遠目からでも大都市と言うにふさわしい光景が広がっていた。

「おー、あれがアメリカーナ共和国!雰囲気もアメリカじゃねぇか!」

アレックスは、故郷の雰囲気を思わせるその景色に、甲板の上で大興奮の様子だった。


新大陸の港に着いた一行は、今後の合流場所と方法を確認し合った。修行が終わったらこの船で落ち合うと決め、アレックスは大都市へと散策に、リーは砂漠へと移動を開始した。ティシアもまた、別行動で自身の実家へと帰っていった。


~アレックス~

アレックスが足を踏み込んだ大都市は、喧騒に満ちていた。石畳の道を行き交うのは、多種多様な種族だった。一番多いのは人間種で、次に熊、虎、獅子など凶暴性の高い獣人種。そして最後に妖精種のドワーフやダークエルフ。

道の両脇には三階建てのアパートが立ち並び、その一階には色とりどりの商店が軒を連ねていた。ガラス張りのショーケースには、どれも綺麗に装飾された品々が並び、中には金貨の値が着いているものまである。活気ある声が飛び交い、芳ばしい匂いが露店からも漂っていた。


アレックスは露店で売っていた、強い香辛料が効いた焼串を齧りながら、キョロキョロと周りを見渡していた。深く被ったフードの下でも、その興奮とテンションは隠しきれていなかった。

「ねぇ、そこのフードのお兄さん。」

ふいに、アレックスへ声をかけてきたのは、長く美しい青色の髪をした女性だった。その声色はとても優しく、アレックスは思わず足を止めた。

「ここへ来るのは初めてなの?」

「そうっす!いやぁ、とってもクールな街ですね!」

アレックスはまっすぐと女性を見て、目を輝かせながら答えた。女性は何かに気が付いたように、一瞬、怪しい笑みを浮かべた。

しかし、それはすぐに消え失せ、何事もなかったかのようにアレックスに声をかけた。

「そーなの、とってもかっこいいでしょ?でも、もしここで暮らすなら、まずは働ける場所が必要よ。私、いい職業紹介所を知ってるの、一緒に来ない?」

「確かに!ここで修行ったって、金がないとな!」

新しい大陸の新しい町に浮かれていたアレックスは、深く考えることなく、お姉さんに着いて路地裏へと進んだ。

路地裏は、薄暗いながらも多くの人々が行き交っていた。壁には色々な文字で落書きがされているが、そこまで危険な香りはしないとアレックスは感じていた。

二人は路地裏の建物へと入った。その建物は路地裏にあるにしては、掃除が行き届いており、綺麗だった。


扉を潜ると、そこには洗練された雰囲気の受付があった。お姉さんは受付嬢へ何かを説明すると、アレックスを左側の応接間へと通した。

応接間は、磨き上げられた大理石の暖炉が置かれ、ふかふかのソファが並んでいた。すぐに運ばれてきたのは、芳醇な香りの暖かい紅茶と、甘く綺麗なお茶菓子。まるでジュールの家のようだとアレックスは思っていた。


数分待っていると、先ほどのお姉さんと小太りのおじさんが入ってきた。そのおじさんはアレックスの目の前に座ると、自己紹介もそこそこに、ニヤリと笑った。

「フードをとってくれたまえ!顔を見ないと職業は紹介できないからね。」

アレックスは自分の見た目がこの世界の人間と違うことを知っていたので、一瞬躊躇した。そして、この状況に何か怪しいことや詐欺めいたものが隠されているのではないかと、彼のジャーナリストとしての勘が働き始めた。

アレックスは【透視】を使い、注意深く周囲を見渡した。すると、この建物の二階に、十数人の子供たちがいるのが見えた。その子供たちは、自由に歩いたり走ったりしている様子は無く、多くの者が項垂れていた。更に目を凝らして見ると、子供達は手足を拘束されているように見えた。アレックスがその光景を脳内で処理しきる前に、入口から受付嬢の悲鳴が聞こえ、応接間のドアが勢いよく開いた。

「暁団だ。大人しくしな!」

突如開かれた扉の先から、黒装束の数名が雪崩れ込む。応接間の空気が一変した。

アレックスは反射的に立ち上がったが、敵か味方かすら判別できなかった。

しかし、黒装束たちは恐ろしく正確に、無駄な傷ひとつ負わせず、的確におじさんとお姉さんを拘束していった。

アレックスが二階の様子を【透視】で覗き見ると、先ほど見えた子供たちも、黒装束の仲間らしき人達に助け出されているようだった。

応接間の扉を開けた一番実権を持っていそうな人物が、アレックスに話しかけてきた。「……君、奴隷商の仲間か?それとも——」

黒装束の男が言いかけたところで、アレックスは強く言い返した。

「被害者側だ!……それより!」

アレックスの目が、子供たちを抱えて階下に降りてきた暁団の仲間たちを見て、熱を帯びていく。

「アンタたち……クールだな。マジで………俺を…あんたらの仲間に入れてくれないか?」

男はしばらく黙ってアレックスを見つめていたが、ふっと目を細めた。

「俺たちはただの勇者ごっこじゃない。時には命を落とすし、裏切られることだってある。正義のつもりで踏み込んでも、相手に家族がいたと知って後悔する夜もある。…それでも来るか?子供を救うために、地獄を見る気があるのか?」

アレックスは深くうなずいた。

「……あるさ。今は見える眼も持ってる。」


~リー~

リーはひたすら歩いた。船の中でティシアに教えてもらった砂漠への道を、脇目も振らずひたすらに歩いた。アレックスが目を輝かせた都市の風景は、やがて広大なじゃがいも畑に、そしてじゃがいも畑は荒涼とした荒野へと変わっていった。彼女はひと袋の水袋を携え、二日間ひたすら歩き続けた。


歩いた先に辿り着いたのは、見渡す限りの砂の大地だった。地平線まで続く黄金色の砂漠を前に、リーは思わず言葉を漏らした。

「ここなら、最高にハードな修行になりそうだ!」

リーは残り半分の水袋を抱え、昼間は灼熱の太陽の下をひたすら歩き、凍えるような夜の氷点下の中で座禅を組んだ。

二日ほど経った頃、目線の端に小さな煙を捉えた。リーはそこに僅かながら、人の気配を感じた。近づくと、そこには小さなオアシスと、簡素な造りの数件の家が建つ小さな村があった。決して豊かな村には思えなかったが、村からは子供たちの笑い声が響いていた。

オアシスを見てリーは自分の水袋を覗いた。中は既に乾いていた。修行のためには水が必要だ。リーはオアシスへと足を運んだ。

オアシスの脇には、日差しを避けるように一人の老婆が座っていた。リーの姿を見て、老婆はにこやかに話しかけてきた。

「おや、こんな所まで珍しい。旅のお方かい?」

リーは水袋にオアシスから水を汲みながら、簡潔に答えた。 「はい。そうです。」

リーは水袋に水が入ったことを確認すると、老婆に頭を下げ、すぐに歩き出そうとした。修行に無駄な時間はない。

「ちょっと待ちな!」老婆はリーを呼び止めた。「オアシスの水より、村の井戸の水のが美味しいし、冷たいよ!汲んできてあげようか?」

老婆は親切にそう説明した。だがリーは、冷たい水が欲しいのではなく、ただ死なない為の水があればいいと考えていた為、すぐに断った。

「いいえ。大丈夫です。では。」

そう言って再びリーは老婆に背を向けた。

そんなリーの背中に、老婆は静かだが、確信に満ちた声で言い放った。

「急ぐことは強さじゃないよ。ちゃんと止まって、心を見つめることが本当の強ささ。あんた、自分が生き急いでる事、気づいているかい?」

リーは呆気に取られた。肉体を鍛えることこそが修行の全てだと思っていたリーにとって、その言葉は大きな衝撃だったのだ。リーは立ち止まり、初めて老婆の方へと振り返った。

【本日の残業報告】(報告者:アレックス)

・新大陸上陸!めっちゃ大都市だぜ

・お姉さんに声かけられて奴隷商へ

暁団(ヒーロー)により救出 → 加入したい!


【本日の残業報告】(報告者:リー)

・砂漠へ単独修行

・オアシス村にて老婆と遭遇


本日の残業報告

#アレックス君巻き込まれる #怪しい姉さんについてく奴 #暁団クールすぎる #クールの定義教えて

#リー修行過酷すぎ #水分管理の教訓 #老婆の一言がクリティカルヒット #心を見つめる修行編へ #急ぐことは強さじゃないよ #全力で生き急ぐタイプ



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